連載1045 「プリゴジンの乱」の行方は? 日本の報道ではわからないロシアの現実 (上)

連載1045 「プリゴジンの乱」の行方は?
日本の報道ではわからないロシアの現実 (上)

(この記事の初出は2023年6月27日)

 もう、いい加減にしてほしい。そう誰もが思っているウクライナ戦争。そこに、突然起こった「プリゴジンの乱」に色めき立った人も多いのではないだろうか?
 しかし、この乱はわずか1日で終演してしまった。いったいなにがあったのだろうか? これまでの報道、専門家の分析では、まったくわからない。常々思うが、いまの日本メディア、専門家は、現実を見る目、洞察力に欠いている。
 ロシアはあなたが思っているような国ではない。ロシアは世界最大のマフィア国家だ。

 

居場所をつかめなくなったプリゴジン

 2023年6月26日現在、メディアはプーチン政権に対して反乱を起こしたワグネルの代表エフゲニー・プリゴジン(62)の居場所が掴めないと騒いでいる。
 モスクワまで200キロのところで、ワグネル部隊は一転して引き返し、プリゴジンはその後「ロシアで血は流したくなかった」とSNSに投稿したが、発信先がどこかは不明だという。
 欧米メディア、ロシアメディアの報道によると、「反逆者は厳しく罰する」としていたプーチンは、プリゴジンを許し、隣国ベラルーシの大統領アレクサンドル・ルカシェンコが仲介に入って、プリゴジンはベラルーシに亡命することになったという。
 つまり、口には出さなかったが、誰もが期待していたロシアの内戦、それによるプーチン政権の崩壊は回避されたわけだが、なぜ、こうなったのかは皆目わからない。
 テレビに出てくる専門家は、「いずれにせよ、これでプーチン大統領の求心力は弱まり、ウクライナ戦争への影響は避けられないでしょう」などと言っているが、果たしてそうだろうか?
 プーチンもプリゴジンも謀略を得意とし、本当のことなど決して言わない人間だ。

法の支配、人権はない「赤い帝国」のまま

 私は、もちろん、ロシアの専門家ではない。世界の社会・経済問題を取材・論評するなかで、その一環としてロシアの政治・経済をウオッチングしてきたにすぎない。よって、専門家の見解は貴重なのだが、今回に限っては(いやこれまでも)、メディアも専門家もロシアに対する見方が「甘すぎないか」と思う。
 政治分析、国際情勢分析、ロシア研究などをすれば、そのように考えるのは仕方ないかもしれない。しかし、ロシアの実社会は、あなたがたが言うようなものではないだろうと、私は思うのだ。とくに、プリゴジンがいまや英雄視され、プーチン後の有力な大統領候補などと言われると、疑問符が頭に浮かぶ。
 はっきり言ってロシアは、いまもなお近代民主義体制とはもっとも遠い社会である。権力は一部の人間たちに握られ、その支配のなかで国民が暮らしている。
 法の支配、人権はなく、かつての「赤い帝国」と同じような1人の権力者によって支配されている。


(つづく)

この続きは7月20日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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