連載1046 「プリゴジンの乱」の行方は?
日本の報道ではわからないロシアの現実 (中1)
(この記事の初出は2023年6月27日)
市場経済導入の混乱でマフィアが台頭
ロシアの本当の支配者は、ロシアンマフィア(いまではオリガリヒと言う)である。これはソ連時代から変わらない。ロシアンマフィアは、イタリア発の本家のマフィアより恐ろしく、世界中にネットワークを持っている。
彼らは、共産主義体制のなかではソ連共産党と結びついて勢力を維持し、ソ連崩壊後は新興財閥(オリガルヒ)となって、さらに勢力を伸ばした。
ソ連崩壊後、アメリカは著名な経済学者でコロンビア大学教授のジェフリー・サックスを中心とするチームを送り込み、ソ連を市場経済に組み込もうとした。
「市場を自由化し、資本主義による競争を導入すれば経済は活性化され、人々は豊かになる」
と、ジェフリー・サックスはエリツィンにアドバイスした。エリツィンは、金融を引き締め、産業への補助金や社会保障費を大幅に削減した。そんななか、2500%のハイパーインフレが襲ってきて、国民生活は困窮化した。
市場自由化の一環として行われた政策に、国有企業の民営化があった、これに飛びついたのがマフィアたちで、彼らは次々と国有企業を手に入れ、オリガルヒとなったのである。
マフィアたちは、ハイパーインフレ下の闇経済で儲け、その儲けでかつての国家資産を手に入れたのだ。
売れなかった『ロシアン・ゴッドファーザー』
プーチンはこうしたソ連崩壊後の混乱なかで育ち、2000年代になって権力の座にのし上がった。そうして、資本主義自由経済の導入は失敗だったとして、オリガルヒを味方につけ、再び国営企業を復活させた。
プーチンより一世代下のプリゴジンは、遅れてきたオリガルヒとしてプーチンに取り入ってのし上がった男である。
私はソ連崩壊直後、これまで明るみに出なかったロシアンマフィアの実態を描いた『ロシアン・ゴッドファーザー』と言う本を翻訳・編集した。この本は、共産主義時代、弾圧されてきたソ連ジャーナリストたちが、やっと自由に物が書けるとして、ソ連社会の真の姿を描いたものだったが、まったく売れなかった。
日本人は、そんなことには興味がなかったのだ。
しかし、この本に書かれたロシアンマフィアたちは、世代を交代していまも生き続けいる。ロシアの資本主義自由経済への移行が失敗したのは、エリツインが政策の実施を急ぎすぎてハイパーインフレを招いたことにあり、資本主義自由経済そのものが間違っていたわけではない。ただ、その混乱をマフィアたちにつけ込まれたのだ。
しかし、プーチンは自由主義そのものが失敗だったとして、強権国家を復活させてしまった。そして、そのトップの座に居座ることで、権力の魔力に取り憑かれている。
(つづく)
この続きは7月21日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。