共同通信
米国家情報官を務めたシンクタンク大西洋評議会のマーカス・ガルラウスカス局長は、北朝鮮の核・ミサイル問題は厳しさを増す一方だとし、抑止力を高めながら情勢を管理し続ける必要があると語った。(ワシントン共同=武井徹)
―朝鮮戦争の休戦協定締結から27日で70年だ。
「協定は新たな戦争を防ぐことには成功してきたが、北朝鮮の攻撃的な行動を止められていない。軍事力を増強し続ける北朝鮮はますます難しい課題になっている。誤算から情勢が緊迫し、限定的か大規模な軍事衝突が起きる懸念が拭えない」
―どう危険か。
「金正恩朝鮮労働党総書記の体制は内部統制に対外的な緊張を利用しており、瀬戸際戦術を使う意欲が強い。多弾頭化した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の大量保有や、戦術核の運搬手段の多様化を目指しており、2030年には実現している可能性を考えなければならない。その頃には中国と米国との対立が一層高まっているかもしれず、北朝鮮に付け入る隙を与えかねない」
―手だてはあるか。
「金正恩氏の妹、金与正党副部長は最近、米国との対話や非核化を改めて拒んだ。短期的には現状を変えるための選択肢があるとは思えない。残念だが、それが現実だ。抑止力を磨きながら、北朝鮮の体制が変わるまで時間を稼ぐしかない。挑発行為を『罰する』と強調し過ぎるのも注意が必要だ。火に油を注ぐようなもので、情勢をさらに不安定化させかねない」
―米韓が核戦略を定期的に話し合う核協議グループの初会合が18日にソウルで開かれた。外務・防衛当局間の拡大抑止協議との違いは何か。
「共有する情報のレベルや種類だ。抑止力だけでなく、実際に核兵器を使う可能性にも焦点を当てていると思う。『抑止協議グループ』ではなく『核協議グループ』という名称が、より現実的な視点を示している。抑止が失敗した場合にどのように対応するのか、考えたくないことを考えておくのは大事だ」
―在韓米軍の兵士が北朝鮮側に越境した。
「北朝鮮は過去にも拘束した米国人を交渉の切り札に利用してきた。解放のために元米大統領など高位の人物が平壌に赴く展開もあり得る」
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在韓国連軍司令部や在韓米軍司令部で勤務。14~20年、米国家情報会議(NIC)で北朝鮮担当の国家情報官(NIO)。23年1月から大西洋評議会スコウクロフト戦略安全保障センターでインド太平洋安全保障イニシアチブを率いる。