共同通信
日本など3カ国が共催するバスケットボール男子のワールドカップ(W杯)は25日で開幕まで1カ月。2006年以来となる国内開催を前に、世界最高峰の米プロNBAで活躍し、日本代表の主軸として期待される渡辺雄太(28)=サンズ=と、人気漫画「スラムダンク」作者の井上雄彦さんが対談し、競技への熱い思いをぶつけ合った。
―渡辺選手は昨季NBAネッツでのレギュラーシーズンで1試合平均16.0分出場、5.6得点、3点シュート成功率44.4%はいずれも5季目で自己最高だった。
渡辺 間違いなく僕にとって分岐点になるシーズンでした。大事な場面で試合に出られる時間は今までのシーズンはなかった。昨シーズンに初めて、1点、2点を争う試合終盤に僕がコートに出て行って、実際に僕のシュートで勝った試合もありました。初めて戦力としてチームに認められたと感じました。
井上 今までも日本人がやっていないことをどんどん成し遂げてきましたが、今回のシーズンはすごかった。本当に力をもらいました。もうワクワクし通しだった。(ネッツで同僚となった得点王4度の)ケビン・デュラントらスーパースターの信頼を勝ち取っているのも見ていて分かった。それもすごいことです。
一方で、シーズン途中にデュラントやカイリー・アービングが他チームに移籍して、完全に違うチームになり、その後はベンチにいる時間が長くなった。あの時期はどうメンタルを保っていたのかを聞いてみたい。
渡辺 今回のシーズンは自分がやれているという感覚がすごくあったので、僕は意外と冷静にいられました。トレードでメンバーが変わり、チームの方針上、出番が減るのは仕方がないというふうに、完全に僕の中では割り切れていました。
井上 自分が駄目なわけではない、と。
渡辺 またコートに出してもらえれば活躍できるという自信が正直ありました。
井上 苦しい時に、誰かに相談したりはしますか。
渡辺 あんまり僕は弱音をはかないんですけど、唯一それを言う相手が香川・尽誠学園高時代の同級生で、今は宮崎・延岡学園高で指導者をしている大親友です。
―NBAの厳しい競争の中で生き残るには。
渡辺 5年間、いろんな選手を見てきて、結局たどりつくのは一番単純なところで、努力しているか、していないか。やっぱり長く生き残れる選手ほど、言い訳をせず、その環境の中で、自分が何をできるのか、と答えを探している。僕もあの世界では特に能力があるわけではない分、そういうところを突き詰めていかないといけない。
井上 (NBAで日本人が活躍する時代が到来し)非常に感慨があります。もう想像以上で感情がついていかないです。
―自国開催のW杯。
渡辺 日本は国際大会がファンと一体となってすごく盛り上がりますよね。バスケはいまいち、まだ熱がないのは、僕らが勝てていないのが一番の原因だと思っています。
今回は日本開催ということで、チャンスはめちゃくちゃある。ここで一気にバスケに火が付くのか、それともまたちょっと停滞してしまうのか。僕としてはそういう面での責任もあると思っています。
―日本は世界ランキング36位。1次リーグで当たるのは11位のドイツ、24位のフィンランド、3位のオーストラリアといずれも格上。
渡辺 高さとか強さでは絶対に勝てない。とにかく展開を速くして、3点シュートを高確率で決められるかどうかに懸かってくる。そこが高確率で決められれば、最後まで競った試合ができると思います。
井上 トム・ホーバス監督からW杯での具体的な目標は言われていますか。
渡辺 監督はアジア1位になって、パリ五輪出場権を獲得することを掲げています。
井上 それをかなえてほしいですね。(見る人を)驚かせてほしい。ホーバス監督のバスケットボールはすごく面白いし、ファンも増えるんじゃないかと。切り替えが速いし、3点シュートがバンバン入るのは見ていて気持ちがいい。小さいチームが大きいチームを倒すというのは、子どもたちも共感しやすいんじゃないでしょうか。
―スラムダンクについて。
渡辺 僕はもう大ファンで、昔は全選手、全セリフを覚えているぐらいに本当に何回も何回も読んだ。(昨年12月に公開された)映画もめちゃくちゃ面白かったです。細部にもすごくこだわっていて、本当にバスケットの試合を見ているみたいな感じでした。
井上 それはうれしいです。バスケットをやっている人に、前のめりになって見てもらえるようなものを描きたかったので、NBA選手にそう言われて、ちょっとほっとしました。