連載1049 「プリゴジンの乱」の行方は? 日本の報道ではわからないロシアの現実 (完)

連載1049 「プリゴジンの乱」の行方は?
日本の報道ではわからないロシアの現実 (完)

(この記事の初出は2023年6月27日)

 

ウクライナ戦争後に続々と国外に脱出

 ウクライナ戦争が起こってから、脱出者が相次いでいる。富裕層とマフィアたちは真っ先に逃げ出した。次が、徴兵拒否の若者たち。それも、比較的裕福で、海外でも職にありつける若者たちだ。
 脱出先は様々だが、アジアではタイが多いのに驚く。
 もともとタイにはロシア人富裕層とマフィアたちがネットワークを持っていて、そのルートでかなりの数のロシア人がいま、タイの有名観光地に滞在していると、「週刊新潮」は記事で伝えている。
《今年1月にタイに入国した外国人旅行者は210万人を超えた。トップは陸路での出入国が可能な隣国マレーシアだが、2位がロシアだった。その数は20万人を超えている。3位以降は韓国、インド、中国とつづき、日本は4万6000人ほどで16位だった。》
《ロシア人の拠点は、パタヤ、プーケット、サムイ島といったリゾート地帯。月額30万バーツ(約120万円)クラスの高級コンドミニアムも軒並みロシア人で埋まっているという。 これらのコンドミニアム、名目上の所有者はタイ人だが、資金を出しているのはロシア人の富裕層だという。
 彼らは物件を購入し、次々にやってくるロシア人に貸しだしているわけだ。ロシア人がロシア人を食い物にする構図だ》
 マレーシア、シンガポールにも脱出ロシア人は数多くいる。富裕層に限れば、ドバイやアブダビは人気の脱出先だ。地中海のキプロス、ギリシャにも多い。

電子令状になって徴兵忌避脱出が困難に

 EU、アメリカ、イギリス、カナダなどは、現在、ロシア航空機の自国領空での飛行を禁止している。そのため、脱出を目指す若者たちは、トルコや中央アジア、南コーカサスなど飛行が許可され、ビザが不要な国にまず向かい、そこから、またほかの国に行くというかたちになる。
 トルコのイスタンブールやアルメニアのエレヴァン、ジョージアのトリビしといった主要都市が人気だ。これらの都市では、ロシアの若者向けのアパートの値段が高騰した。
 今年の4月15日、プーチンは徴兵忌避の対策として「電子招集令状」を導入する法案に署名し成立させた。これにより、ネットを通じて電子令状が通知された瞬間から、予備役などの対象者は出国禁止となった。
 これまでの紙の令状は、本人に手渡さなければ原則無効だった。そのため、昨年秋に予備役30万人を招集した「部分動員令」の際は、直接受領しなければ逃れられるという「抜け道」があった。しかし、もうこの「抜け道」は塞がれた。
 このままウクライナ戦争が続けば、ロシアの一般国民は、国内に閉じ込められ、マフィアの支配下で貧しい暮らしを送るしかなくなるだろう。


(つづく)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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