連載1050 認知症の進行を遅らせる
FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (上)
(この記事の初出は2023年7月4日)
アメリカのFDA(米食品医薬品局)の発表次第で、製薬大手エーザイの株価がジャンプアップする公算が大だ。エーザイと米医薬品大手バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病治療薬「レカネマブ」が、正式承認される可能性が高いからだ。
認知症に関しては、これまでさまざまな進行を遅らせるクスリが開発されてきたが、「レカネマブ」はどうやら本当に効果があるようだ。
はたして、認知症は克服可能なのか? 今回は認知症治療の最前線をレポートしてみたい。
理想は「PPK」。認知症だけにはなりたくない
私のような高齢者にとって、最大の不安は、いつまで健康でいられるかということ。そして、このまま認知症にならずに、穏やかに死ねるかということである。人間誰もが死ぬのだから、死そのものを恐れても仕方ない。ただ、どんな死に方をするかわかないことが不安だ。
とくに、認知症になって、自分が人間であることすらわからなくなって死んでいく。それだけは耐えられない。母がそうだっただけに、その姿を思い出すと、切にそう思う。できるなら、理想とされる「PPK」(ピンピンコロリ)で、直前まで元気でスッと逝きたい。
だが、それができるのは10人に1人だ。多くの高齢者が要介護生活のなかで死んでいくという。これに認知症が加わったら、本人も周囲も悲惨なことになる。
2020年時点で、日本における65歳以上の認知症患者数は約602万人、2025年には約675万人になるとされている。これは有病率18.5%で、高齢者の5.4人に1人が認知症ということである。さらに、年齢が進んで80歳代になると、有病率は30%を超える。
となると、歳を重ねるたびに、認知症に対する不安は募っていく。
「レカネマブ」が正式承認される可能性は?
認知症の克服は、がんの克服とともに、これまで医学の最大のテーマとされてきた。ところが、がんのほうは治療法が飛躍的に進んだものの、認知症のほうは一向に進まない。身もフタもない話だが、認知症は発症してしまったらそれでもう終わりだ。あとは、症状の進行をなんとか遅らせることしかできていない。
そんななか、進行を確実に遅らせるというクスリが開発され、今年の1月にFDA(米食品医薬品局)に「迅速承認」(accelerated approval)された。日本のエーザイとアメリカの製薬大手バイオジェンが共同開発したもので、「レカネマブ」(Lecanemab)という。
「迅速承認」というのは、ひと言で言うと仮免許。まだ、本免許は交付されていなのだが、さる6月9日、FDAの諮問委員会は、正式承認をするよう勧告したため、正式承認(正式免許)は間違いないと大きなニュースになった。
その期限は7月6日だ。
正式承認が発表されれば、さらに大きなニュースになるはずだ。
すでに、6月9日の勧告時点で、エーザイとバイオジェンの株価は上がった。正式承認なら、さらに上がるのは間違いない。1月に迅速承認された時点で「レカネマブ」は、「レケンビ」(Leqembi)という名称で販売が始まった。したがって、正式承認となれば、販売は一気に拡大するだろう。その市場はすぐに10億ドルになると言われている。
(つづく)
この続きは8月1日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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