連載1051 認知症の進行を遅らせる FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (中1)

連載1051 認知症の進行を遅らせる
FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (中1)

(この記事の初出は2023年7月4日)

 

エーザイとバイオジェンの再挑戦

 新薬「レカネマブ」は、医療関係者なら誰でも知っているように、2年前に同じく認知症薬として開発された「アデュカヌマブ」(Aducanumab)のリベンジ新薬と言えるものだ。
 「アデュカヌマブ」も、エーザイとバイオジェンが共同開発したもので、2021年6月にFDAで承認された。FDAが認知症分野での新薬を承認するのは20年ぶりだったため、このときも大きなニュースになった。
 あとで説明するが、「アデュカヌマブ」は認知症の原因とされるたんぱく質「アミロイドβ(ベータ)」を脳内から取り除き、認知機能を回復させるとされた。ただし、その効果に疑問があると指摘されたため、FDAは承認の条件として追加の治験を求めた。そうして、効果が十分に確認できなければ取り消す可能性もあるとした。
 そのため、アメリカの多くの病院では使用を差し控え、欧州では EMA(欧州医薬品庁)が承認をしなかった。さらに、 FDAも昨年4月の時点で「症状の改善を示す十分な証拠がない」などとして、高齢者向け保険に適用しないことを決めた。これにより、バイオジェンは申請を取り下げてしまった。
 日本も2021年12月の時点で、厚生労働省の専門家部会が、国内での製造販売について結論を持ち越し、継続審議として“棚上げ”にしてしまった。
 つまり、以上の経緯から、今回の「レカネマブ」は「アデュカヌマブ」のリベンジと言えるのだ。

原因物質の「Aβ」を脳内から除去

 では、「レカネマブ」は、FDAが正式承認をすると言われるほど、画期的な効果があるのだろうか? 一部で“夢の新薬”とされるが、それは本当なのだろうか?
 現在の医学では、認知症は、発症前段階、すなわち「MCI」と呼ばれる「前兆期」(軽度認知障害)ならば、治療薬が効く。クスリによって進行を遅らせることが可能とされている。新薬「レカネマブ」は、この前兆期に投与するクスリだ。
 認知症患者の多くがアルツハイマー型である。認知症にはさまざまな種類があるが、代表的なものは4つ。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体認知症、前頭側頭型認知症で、アルツハイマー型認知症は認知症全体の約7割を占め、高齢になって発症する認知症はほとんどがアルツハイマー型だ。
 アルツハイマー型の原因として、もっとも有力とされるのが、前記した「アミロイドβ(ベータ)」(「Aβ」と略す)である。これが脳内に蓄積していくと、神経細胞の働きが低下して認知症になるとされている。
 「レカネマブ」は、抗体の働きで脳内に蓄積された「Aβ」に結合して、それを減らしていく。とくに、蓄積された「Aβ」が塊になる「プロトフィブリル」と言われる段階で、これを除去するという。


(つづく)

この続きは8月2日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :