連載1055 岐路に立つバイデン・アメリカ
「学生ローン」「人種優遇」停止で経済失速も? (上)
(この記事の初出は2023年7月7日)
高らかに「バイデノミクス」の成功を宣言
2023年6月28日、ジョー・バイデン大統領はシカゴで演説を行ない、これまでの経済政策を自画自賛、来年の大統領選に向けてのアピールとして、自身の政策「バイデノミクス」(Bidenomics)をさらに進めると述べた。
「今日、アメリカは高い経済成長率を誇り、新型コロナウイルスのパンデミック以降、世界経済をリードしている。
みなさん、これは偶然ではない。これがバイデノミクスの成果だ。バイデノミクスとは、富裕層を優遇するものではなく、中間層が経済を主導していくものだ」
しかし、大統領が言うように、アメリカ経済はそこまでよくなっていない。中間層は増えていないし、依然として高い率のインフレが続いている。最近の「ギャラップ」(Gallup)の世論調査によると、76%のアメリカ人が経済状況は悪化していると答えている。
そんな状況にさらに追い打ちをかけるかのように、バイデン演説の直後に、連邦最高裁は2つの“画期的”な判決を下した。
学生ローンの免除停止は経済失速をもたらす
今回、最高裁が下した2つの判決は、バイデン民主党政権にとっては、大きなダメージになって、いまも、その波紋が広がっている。
その2つの判決とは、6月29日に出た、大学などでの「積極的人種差別是正措置」(アファーマティブ・アクション:Affirmative Action)は排除されるべきという判決と、翌30日に出た、多くの若者たちが苦しんできた「学生ローン(Student Loan)の返済免除措置」は違憲というものだ。
アファーマティブ・アクションというのは、たとえば黒人などの人種的マイノリティを一定の割合で大学に入学させるというレギュレーションで、これが停止されたからといって、経済的には大きな問題は生じない。
しかし、学生ローンの返済免除がなくなれば、ふたたび債務返済に苦しむ人間が続出する。おそらく、破産者も出るだろう。
アメリカの学生ローンの借り手は約4500万人、その総額は1.6兆ドル(約230兆円)とされ、昨年11月までに約2600万人が返済免除を申請している。その額は4300億ドル(約62兆円)で、最高裁判決が履行されればこの政府負担が債務者本人に戻る。
となると、結果的に増税と同じ効果をもたらすので、アメリカ経済は失速する。バイデンが描いた中間層の拡大にブレーキがかかるというわけだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。