アートのパワー 第15回 二人のアジア系アメリカ人のミステリー作家 (下)エド・リン(Ed Lin:台湾系アメリカ人2世)(後編)

アートのパワー 第15回 二人のアジア系アメリカ人のミステリー作家 (下)エド・リン(Ed Lin:台湾系アメリカ人2世)(後編)

リンの台北士林夜市(Night Market)シリーズ(全4巻)では、家族経営の夜市屋台の登場人物だけで台湾の民族史の縮図となっている。主人公のジンナン(Jing-nan)は25歳で、UCLAに留学中、両親が突然亡くなったことで呼び戻され、祖父のギャンブルの借金を返済するために士林夜市で串焼き屋をつぎ、退学せざるを得なくなった。祖父母は明崩壊後、中国本土から台湾に移住し何百年も住んでいる漢民族で、田舎に住んでいたが、台北に移動し、屋台を開き父親もそこで働いていた。ジンナンは屋台で祖父が雇った2人の退役軍人と働いている。1人は認知症の70代の男で、1949年中国に共産党政権が樹立したとき、まだ幼かったが、内戦のどさくさで家族を本土に置いたまま台湾に逃れたという。もう1人は、祖父が病気で働けなくなったため雇われた台湾原住民とのハーフの男性で、彼は原住民の言語や文化の抹殺に直面し、自らのアイデンティティーに悩んでいる。

 

台北士林夜市シリーズ

リンは、中国本土とアメリカの外交政策に挟まれた台北の影のような存在、ハイテク産業で成功しながら根強く残る古くからの宗教的迷信、アメリカのメリーランド州とほぼ同じ大きさの島に住む2,400万人の民族の複雑さを痛烈に描いている。そんな中、ジンナンは友人や親戚を巻き込んだ殺人事件の解決に奔走しながら、夜は英語で屋台の呼び込みをする行商人ジョニーという外交的なペルソナを演じ、昼はソーシャルメデアで屋台の宣伝に励む。リンは現在、台北士林夜市シリーズの新作を執筆中ということだ。彼の本はシリーズ3冊目から、ミステリー小説ので有名なSoho Pressが出版している。  

私がウェストチェスターで育った頃は、アジア系アメリカ人文学という分類がなかった。当時ウェストチェスターには補習校はなかったので日本語を学ぶ機会がなかった。25年前くらいからアジア系アメリカ人が書いた本が多数出版されるようになってきたことを嬉しく思っている。その中でも、平原直美とエド・リンは、アジア系アメリカ人/アジア人の歴史や経験への足がかり(糸口)を提供してくれている。

 

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日本語でも英語でも、読み書きは会話とは別の次元のチャレンジだ。母国語でない本を読むのは大変だと思う。私は英語で教育を受けたが、この記事を日本語で書こうとしているので、言葉の難しさは身をもって知っている。(原稿を真っ赤にしてくる日本語編集者のおかげでこの記事が書けている。)コロナ禍中、公共図書館の素晴らしさを改めて発見した。E-ブック やオーディオブックをネット経由で多数借りることができた。オーディオブックは著者が読んでいる場合もある。オーディオブックは部分的に聞き返すことができるので、目読するよりも楽である。州や自治体の政治動向次第で、本が発禁処分を受けたり、検閲される時代になってきた昨今において、地元の図書館をサポートすることはとても重要なことである。勿論、フォーマットは問わず、これらの本の購入もお勧めしたい。

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文/ 中里 スミ(なかざと・すみ)

アクセアサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴37年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。

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