連載1062 インバウンド回復の大誤算。 なぜ中国人は戻って来ないのか? (下)

連載1062 インバウンド回復の大誤算。
なぜ中国人は戻って来ないのか?
 (下)

(この記事の初出は2023年7月18日)

 

「来なくなって清々した」という声

 中国人観光客が戻ってこないという現象に、中国マネーをあてにした一部の観光業界は、悲鳴を上げている。ただ、ヤフーニュースやツイッターなどのネットの書き込みを見ると、「よかった」というコメントが溢れている。露骨に「中国人が来なくなって清々した」という声もある。
 以下、そのいくつかを拾ってみた。「いままでがオーバーツーリズム。彼らが大挙して訪れるところは、日本ではなくなる。来なくて大歓迎だ」「来ないなら、わざわざ呼ぶ必要はない。欧米の個人旅行者は、日本人以上に日本の地方を訪れ、いいところを探している。欧米旅行客にシフトするチャンスだ」「中国人が来て儲かっているというが、そうではないだろう。彼らは飛行機、ガイド、ホテル、移動バス、ほとんど中国資本の企業を使っている。そんなら、来なくて結構ではないか」
 日本人はなぜか、おしなべて中国人が嫌いである。かつて、見下していた人々が豊かになり、わが物顔で国内を歩き回るのを許せないのだ。
 しかし、衰退の一途をたどる日本経済から見て、ここで、中国からのインバウンドを失うのは、大きな損失である。

あてが外れた「日中友好45周年」

 今年、2023年は「日中平和友好条約45周年」の節目の年である。コロナ禍が明けたことと、この記念イヤーが重なったことで、中連協(中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会)は、訪日中国人観光客が以前のように大挙してやって来ることを期待していた。
 中連協とは、2000年に中国から日本への団体観光旅行が開始されたのを機に発足した旅行会社の組織。2022年度の総会員数は281社で、加盟社は、観光庁が指定した、日本側の身元保証人となる身元保証書を発行できる。
 中連協では、日本が6月19日から中国人観光客向けの30日以内の観光を目的とする短期一次電子ビザ(個人ビザ)の発給を開始したことに合わせ、様々な取り組みを開始した。
 しかし、その当てはいま外れつつある。関係者に聞くと、「今年の初めから動き始め、すでに受け皿は整っているのですが、中国のほうが動きません。中国も夏は観光シーズン。コロナ禍前なら、ホテルも旅館も中国人で満杯だったのに—–。
 中国人は来ている人は来ています。ただ、多くが富裕層の個人旅行客です。一般客はあまり来ていませんね」

北京は国民を日本に行かせたくない

 じつは先月から今月にかけて、私の家に、娘の中国留学時代の親友とその母親が南京からやって来た。久々に日本を訪れるのを楽しみにしていたが、「いま、中国では政府が日本に行くことを歓迎していないので、どうしようか迷いました」と言うのである。
 中国人が日本に来るには、短期滞在の個人ビザが必要である。それが、コロナのときは、年収制限が引き上げられて50万元(約1000万円)となった。ゼロコロナ政策とロックダウンで、事実上の鎖国をしていたときは、この額は問題なかったが、いざ解禁となると、一般の個人旅行客には大きな足かせとなった。
 それもあり、5月からは10万元(約200万円)に引き下げられたが、それでもハードルが高いという。
「限度額を引き下げたとはいえ、このシステムを続けているのは、北京が国民が海外にでるのをコントロールしたいからだと思います。とくに、日本とアメリカには行かせたくないのです。台湾問題があるからですよ。実際、団体ツアーのほうは、まだ解禁されていません」
 かつては、旅行社に行けば日本ツアーのパンフが山ほどあったというが、いまはほぼないという。


(つづく)

この続きは8月17日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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