連載1064 できるわけがない地方創生:
支援金、補助金で「移住促進」という超愚策 (上)
(この記事の初出は2023年8月1日)
最近、腹が立つことが多い。その一つが、地方創生であり、そのための方策として行われている「移住促進」政策だ。移住するなら支援金、移住してくれたら補助金をあげますというのだが、そのもとは税金である。
おカネ目当てに地方に移住する人間はいるにはいる。しかし、そんな人間をいくら呼び込んでも地方創生などできない。
今日また、無駄な税金が使われ、地方はますます疲弊していく。
“ふなっしー”が宮崎県都城市にお引っ越し
さる7月13日、宮崎県都城市が都内で中央のメディアを集めたキャンペーンイベントを行った。その主役は、なんと、あの“ふなっしー”。誰もが知る千葉県船橋市の私設マスコットキャラクターだ。なぜ、都城が縁もゆかりもない船橋の、しかも、公認キャラクターでない“ふなっしー”を呼んだのだろうか?
都城市は宮崎県第二の都市で、現在の人口は約16万人。数年前から穏やかな人口減少に見舞われているが、今後はそれが加速し、20年後には12万人台になると予測されている。そのため、市では「住めば住むほど都城」というキャッチフレーズの下に、これまでさまざまな移住促進策を進めてきた。
今回はその一環として、“ふなっしー”に都城に移住してもらうという設定のキャンペーンだった。
イベントに登場した“ふなっしー”に、池田宜永市長は“ふなっしー”の名前に数字を当てると「274」となることにちなみ、「都城市役所内274号室」という架空の住所の特別住民票を贈呈。さらに、“ふなっしー”にはきょうだいが274人いるということから、全員が移住してくるという想定で2億7700万円の移住応援給付金の模擬パネルも手渡した。
池田市長は、「“ふなっしー”の目線を通じて、都城の子育てのよさや移住支援のお得感を感じてほしい」と、得意げに語った。
1世帯あたり最大300万円、子ども100万円
それにしてもと、私は思う。こんな語呂合わせに過ぎないイベントを考え、さらに効果などわからないキャンペーンに、公金をつぎ込んでいいのだろうか?と。
しかも、すでに“ふなっしー”は5本のキャンペーン動画を撮影、市のサイトにアップされている。その内容は、“ふなっしー”が市内を訪れ、移住応援給付金の説明を受けて驚いたり、宮崎牛を味わったりするというもの。馬鹿馬鹿しいにもほどがあるというものだ。
都城市の移住促進政策は、全国でもトップレベルである。なんといっても、いち早く独自の保育料無料化を制度化した。そして、1世帯あたり最大300万円の基礎給付金に子ども(18歳未満)1人あたり100万円を加算して給付するという移住応援給付金の制度を設けた。
ここまで、手厚い支援をすれば、移住者はやってくる。
都城市が公表しているところよると、昨年、市の窓口に移住相談をして実際に移り住んだ人は220世帯435人で、過去最多。ほとんどが県外からの移住者で、東京都からが37世帯ともっとも多く、続いて大阪府が23世帯、福岡県が20世帯となっている。これに気をよくした市は、今年から山間地域に移り住む場合は、支援金を100万円を上乗せすることを決定した。
信じがたい「愚策」ではなかろうか?
(つづく)
この続きは8月29日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。