連載1066 できるわけがない地方創生:
支援金、補助金で「移住促進」という超愚策 (下)
(この記事の初出は2023年8月1日)
東京から地方へ移住で最大「300万円」
地方自治体が、さまざま移住促進策を行っているのは、国自体が「地方創生・地方再生」を掲げて、積極的に地方移住を促進しているからだ。
その最たるものが、2019年から6年間の期限付きで始まった「移住支援制度」である。これは、国と地方自治体が一体となって、地方移住や地方での起業・創業を後押しするもので、条件に当てはまる場合は、「移住支援金」「起業支援金」などが支給される。いずれも、移住先の自治体の相談窓口に申請して手続きする。
移住支援金は、現在東京23区に在住または通勤する人が東京圏以外の道府県へ移住して、起業・就職を行う場合に交付される。支援金額の設定は各都道府県によるが、上限額の1世帯100万円(単身者60万円)にしているところが多い。また、18歳未満の子どもがいる場合は1人につき30万円が加算されたが、今年の4月より子ども1人につき100万円に増額された。
起業支援金は、地域の課題解決に資する社会的事業を新たに起業しようとする人間が対象。条件を満たせば、最大200万円が給付される。移住支援金と合わせれば、地方移住で最大300万円となる。
となれば、かなりの人間が地方に出ていくと思われたが、実際は、ほとんど効果が上がっていない。
いくら支援金を出しても東京から出ていかない
政府が掲げた東京圏からの地方移住者の数値目標は、2027年度に年間1万人に増やすことだった。
しかし、直近の人口移動報告データをみると、東京都は依然として転入超過を続けている。人口の首都圏集中が続いている。東京都の2022年の転入超過は3万5746人である。
これに対して、政府の支援金をもらって地方に移住した人間は、2019年度から2021年度までの3年間の実績が公表されているが、なんとたったの3067人である。初年度はわずか71件123人にすぎず、その後、徐々に増えて2021年度は1184件2381人となっているので、今後も少しずつだが増えるだろう。ただ、目標の年間1万人は、ほぼ無理だと思える。
政府が地方創生関連に注ぎ込んだ当初予算は、2021年度は1兆2356億円。このうち移住支援金などを含んだ地方創生推進交付金は1000億円。これだけ注ぎ込んで3年間で3000人程度は、ほとんど効果がなかったと言うほかない。いまや、どうやっても地方から人は出ていき、首都圏から地方には行きたがらないのは明白だ。
これでは、人間の移動による地方創生は、とうてい無理。「無理ゲー」と言うほかない。
「地域おこし協力隊」という大失敗政策
地方創生といえば、「地域おこし協力隊」という事業にも国は税金をつぎ込んできた。
地域おこし協力隊というのは、応募者を都会から地方に送り込み、そこで、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地方への定住・定着を図っていこうというもの。
隊員を任命するのは各地方自治体であり、活動内容や条件、待遇は、募集自治体によりさまざまで、任期はおおむね1年~3年。
この事業は2009年に開始され、2021年度の取組団体数(受入自治体数)は1085団体で、6015名の隊員が全国で活躍している。政府は隊員数を2026年度までに1万人に増やすという目標を掲げているが、これまで聞くところによると、事業的にはほとんど失敗している。
私の知り合いのライターは、原稿料収入の激減から、協力隊に応募して、ある地方に移住したが、3年持たずに東京に戻ってきた。
「最長3年間、夫婦で月額30万円の給料(1人約15万円)がもらえるうえに住むところも提供されるので、思い切って応募したんです。3年後には、現地に溶け込んで、起業するということでしたが、行ってみたら思惑がはずれました。
役所は“いい人間”が来てくれたと歓迎してくれましたが、役場の雑用から自治会のお手伝い、町の特産品店の営業、農家の草刈りの手伝いなどをしなければならず、それだけで毎日がつぶれて、起業のことまで手が回りませんでした」
総務省のホームページには、協力隊の活躍ぶりが紹介され、メディアも「岡山県美作市」「山形県朝日町」などの成功例を取り上げて喜多が、それは一部の話にすぎない。これまで協力隊で行ってそのまま定住した人間は4割に満たないという。
(つづく)
この続きは8月30日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。