連載1067 できるわけがない地方創生:
支援金、補助金で「移住促進」という超愚策 (完)
(この記事の初出は2023年8月1日)
地方自治体と人材の本気度によるミスマッチ
なぜ、失敗例のほうが多いのか?
前記したフリーライターが、次のように言う。
「私の場合は、受け入れ自治体が制度そのものをよくわかっておらず、ともかく都会の人間を受け入れたということに尽きます。国の援助で自治体としては給料を払わない事務員が増えたという感覚ぐらいしかないんです」
「だから、町おこしに役立つことならなんでもやってくれと言われたんですが、結局、勝手に使われただけでした。町おこしのアイデアやレポートも出しましたが、聞き入れてもらえませんでした。そんなことより、ここを手伝ってくれ、あそこも手伝ってくれといった具合で、結局、2年間、臨時職員としてすごしたようなものです。
「もちろん、本気で町おこしを考えているところもあり、そういうところではちゃんとした担当者がいて、いっしょに仕事ができます。地元の産品を共同で開発したり、営業をしたりしている協力隊員もいると聞きます」
「こういうところに、覚悟を持って行った隊員はいいかもしれませんが、とりあえず行ってみようで行った隊員はどうしようもありません。3年間の食い扶持確保に行っただけですから、地域の足手まといになるわけです。だいたい、農業をやったことがない素人が、いきなり農業ができるわけがありません。起業を考えたこともないのに、口先だけで採用された隊員も本気度が強いところでは、使い物になりません。
このような地元と人材のミスマッチがあるところは、必ず失敗しますね」
地方創生というスローガンの下に、単に税金を投入するスキームとして「地域おこし協力隊」制度がつくられた。それを国は地方に丸投げ。
結局、国にも地方にも応募人材を活用するアイデアはなく、応募した人材にもたいしたアイデアはなかったということに尽きるだろう。
「ゆるキャラ」と「B級グルメ」はどこへ?
それにしても、なぜ、地方創生をしなければならないのか? 税金をいくら投入しても人口減には勝てない。それならば、減っていく人口に見合った地域社会を再構築すべきではないだろうか?
これまでの地方創生・再生の取り組みを見ていると、“ふなっしー”のような「ゆるキャラ」が乱立し、一時的にブームにはなったが、いずれも失敗している。成功したのは、熊本県の“くまモン”だけだろう。
これまで、全国の自治体は「ゆるキャラ」づくりに励み、少しでも知名度を上げて地元の特産品などを売ろうとしてきた。しかし、制作費、イベント会場費、着ぐるみの代金などはバカにならない。全国に出かければ交通費、宿泊費もかかる。これらの費用は、国からの「緊急雇用創出推進事業補助金」などを使って民間委託されていたり、あるいは自治体で独自に予算計上していたりするが、すべて税金。とんでもない無駄遣いである。
かつて「ゆるキャラグランプリ」があったが、もう開催されていない。
「ゆるキャラ」と並んで、その地方独特の「B級グルメ」をつくるという取り組みもあった。富士宮やきそば、横須賀海軍カレー、佐世保バーガー、八戸せんべい汁、甲府鳥もつ煮……などが有名になったが、それ以外の多くが討ち死にした。それは、その地域とは縁もゆかりもない「一発勝負」型のB級グルメだったからだ。
自治体消滅を防ぐための「本末転倒」政策
「ゆるキャラ」とB級グルメ」、そして「移住支援金」と、その多くが失敗しているのに、いまだに誰も「もうやめよう」とは言わない。大阪万博もそうだが、失敗は明らかで、税金の無駄遣いの典型なのに、誰も「やめよう」とは言わない。
そのため、地方創生という「大義名分」のために、全国の自治体は移住促進のための「補助金、給付金」戦争に陥っている。なにしろ、国自体がそれを行っているのだから、救いようがない。
税金のバラマキに過ぎない補助政策を続けると、経済はどんどん疲弊する。
いま全国の自治体は、自治体を消滅させないために住民が減るのを食い止め、移住者を増やすそうとしているとしか思えない。本末転倒ではなかろうか。
人口が減っていくのだから、自治体も規模を縮小していく。それが自然な成り行きだ。住民がいなくなれば自治体もなくなる。これが当たり前の話なのに、そうししないであがいている。
これでは、より早く疲弊してしまうだろう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。