連載1069 マイルドインフレでも生活は破壊される! 秋に顕在化する大不況前に知っておくべきこと (中)

連載1069 マイルドインフレでも生活は破壊される!
秋に顕在化する大不況前に知っておくべきこと (中)

(この記事の初出は2023年8月15日)

 

インフレ率が3.2%となって日米逆転

 総務省が7月21日発表した6月のCPI(消費者物価指数、2020年=100)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数で105.0となり、前年同月比で3.3%の上昇。インフレは相変わらず続き、その率は月ごとに拡大している。
 これまで、世界中が高インフレに悩まされてきたが、3.3%というのは、それに迫るものだ。じつは、アメリカはインフレ率が月ごとに下がってきて、6月のCPIは3.0%の上昇だった。
 つまり、日米のインフレ率は逆転してしまったのだ。
 この高インフレにより、家庭の消費は大きく減少した。6月に2人以上の世帯が消費に使った金額(=消費支出)は27万5545円で、物価の変動を除いた実質で前年同月比で4.2%の減少となり、4か月連続のマイナスを記録した。
 家庭の消費で、大幅に減ったのはエアコンなどの家庭用耐久財で32.1%の減少。そのほか、仕送り金が28.6%減、補修教育などの教育費が9.6%減、食料が3.9%減だった。日本の平均的家計は相当追い詰められている。

消費減退による不景気で倒産が激増

 夏になって、アメリカはインフレが沈静化しつつある。それは、これまで原材料価格が上がるのに合わせて販売価格も上げ、賃金も上げてきたためだ。もちろん、FRBが金利を上げ続けてきたこともある。
 いずれにしても、アメリカは原材料価格の上昇に伴う価格転嫁がほぼ終わったと見てよく、それに対して日本は、まだまだ転嫁ができていない状態であると言える。
 それは、消費が減退しているのに値上げすると、販売が落ち込んでしまうからだ。企業は、それが怖くて価格転嫁をためらっている。
 しかし、もはやそれも限界に達して、最近はあらゆるモノが値上げに入った。つまり、日本のインフレ率はこれからまだ上がる可能性が高い。
 日本の消費減退による不景気ぶりを示しているのが、上半期の企業倒産件数が5年ぶりに4000件を超え、14か月連続で前年を上回ったことだろう。帝国データバンクの調査によると、とくに飲食店の倒産が多くなっている。客足は回復したものの、それを上回る原材料高、人件費、光熱費など店舗運営コストの急騰で事業継続を諦めるケースが続出している。なかでも、居酒屋の倒産が目立つ。

なぜ、日銀は金融緩和をやめないのか?

 このような状況なのに、政府・日銀は動かない。とくに日銀は物価の安定こそが最大の使命なのに、インフレを放置している。というか、これまで続けてきた金融緩和をやめようとしない。“異次元”の金融緩和は、デフレ・スパイラルから抜け出すため行ったもので、物価上昇の目安は2%だったから、すでにその目標は達成されている。
 それなのに、7月27~28日に行われた日銀の金融政策決定会合では、YCC(イールドカーブ・コントロール)の修正を決め、長期金利の上限を「0.5%程度」から1.0%に引き上げただけだった。
 植田総裁は、この措置を「YCCの持続性を高めルため」と説明し、異次元緩和をやめることを否定した。
 金利の上限を上げたのに、金融緩和を維持するというのは、説明になっていない。まったく辻褄が合わない。
 総裁がこんなことを言わざるをえないのは、日銀が国民経済の安定より、政府の借金財政の維持を至上目標としているからだ。緩和をやめて金利上昇を市場実勢に合わせれば、政府は国債の利払いに逼迫し、財政はたちまち行き詰まる。


(つづく)

この続きは9月6日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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