連載1071 マイルドインフレでも生活は破壊される! 秋に顕在化する大不況前に知っておくべきこと (完)

連載1071 マイルドインフレでも生活は破壊される!
秋に顕在化する大不況前に知っておくべきこと (完)

(この記事の初出は2023年8月15日)

 

この秋、ガソリン代の200円超えは確実

 現在、私たちは、今後もずっと続いていくに違いないインフレ、いやスタグフレーションのただなかにいる。そして、夏が終われば、それが顕在化、悪化する。たとえば、ガソリン価格は1リットルあたり200円を突破してしまうだろう。
 経産省が8月9 日に発表したレギュラーガソリンの平均価格は、全国平均で1リットルあたり180円30銭と、15年ぶりの高値だった。お盆の帰省で高速を使った人も多いと思うが、一部のサービスエリア内のスタンドでは200円を超えたところもでた。
 しかし、高値といっても、これは補助金により6円抑えられた価格である。その補助金は、6月から段階的に縮小され、10月にはなくなることになっている。つまり、今後、ガソリン価格はもっと上がる。
 現在、世界の原油価格は1バーレル80ドル台前半にあるが、需要が旺盛なのにOPECが増産をしないため、今後、値上がりが確実視されている。徐々に100ドルに近づくと思える。
 ウクライナ戦争が起こった昨年春、原油価格は1バーレル100ドルを超えたが、このときのドル円は133円。それがいまは145円。この先、さらに円安になるとしたら、ガソリン価格は、200円を超えて定着するのが確実だろう。
 岸田内閣が、この事態を国民生活の危機と認識すれば、なんらかの手を打つかもしれない。しかし、なにもしない、できないのが取り柄のような首相だから、補助金は予定通り打ち切るだろう。打ち切っても、たとえば、トリガー条項を発動すれば1リットル25円は引き下げられる。また、ガソリンに限って消費税をゼロにすれば20円は値下げできる。
 しかし、どうもしそうな気配がない。となると、原油高、補助金終了、円安のトリプルパンチに見舞われ、インフレはさらに亢進する。

どうなる?インフレ経験のない若者たち

 バブル崩壊以後の「失われた30年」は、デフレの時代だった。だから、多くの日本人がインフレ下の生活を実感として持ち得ない。私のような高齢者は別として、若い世代は、モノが「値上がり」することを知らない。むしろ、デフレで、「100均ショップ」「ワンコインランチ」などが登場し、モノは安くなるものと思い込んでいる。
 しかし、インフレ下では、今日100円で買えたモノは明日100円では買えないのだ。
 日本人は「貯金好き」と言われるが、それはデフレが続いたためで、おカネそのものは好きだろうが、貯金そのものが好きなわけではない。デフレ下での貯金は、将来の安心に繋がったから、貯金をしていたに過ぎない。
 しかし、インフレ下では、貯金は将来の不安を増長させるだけだ。
 アメリカのインフレは減速したといっても、世界的なインフレは終わる気配はない。また、終わったとしても、それは高インフレであって、マイルドインフレは今後も続いていく。
 そんななか、ここまでなにもしない政府・日銀の下で暮らすのは本当に大変なことだ。岸田首相のままでは、日本の経済政策の転換はありえない。若者たちの将来が本当に思いやられる。


(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。