津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.16 ジャニーズ会見は「学芸会」 性加害?性的虐待は「魂の殺人」
ジャニーズ事務所の故ジャニー喜多川氏が、未成年のタレントに性的虐待をしていた問題で9月7日、同事務所が会見を開いた。日本メディアではなく、英BBCが喜多川氏を「J-POP(タレント少年の)捕食者」として報道した3月から半年後。新社長はタレント最年長の東山紀之氏と「お手盛り」人事、しかも数百人とみられる犠牲者の具体的な救済策も示されず。東山氏らの演技力に頼った「学芸会」だった。
欧米の企業であれば、株価暴落で、経営破綻への序奏となる破滅的な内容だ。同事務所の最年長タレントで、性加害について「噂として聞いていたが、何もできなかった」(東山氏)というトップが今後、社内を刷新できるのか。東山氏が「僕のソーセージを食え」と少年らに言ったことも報道され、加害者側だった可能性もある。トップ交代時に新味がなく、信頼性を欠くことは、株価暴落の最たる理由だ。
第2に、全てにおいて危機管理意識が皆無だ。東山氏は、経営経験がゼロだが、年末のテレビ番組までタレント業は続けるという。 喜多川氏という犯罪者の名が入った社名も変更はしない。会見で記者からは「ヒトラー株式会社ってないですよね」という質問が出た。
ここまで危機管理意識がゼロで、企業ガバナンス対応ができない企業がなぜ存在するのか。日米企業文化の違いに詳しいサイボウズ社外取締役でニューヨーク在住の渡邊裕子さんはこう指摘する。
「株式非公開で、ファンや視聴者など消費者は離れていかないとなめ切っているからでは。日本メディアや企業スポンサーの突っ込みも甘い。欧米ではタレントがすぐに他事務所に移動するだろうが、そういう危機感もない」
最も懸念されるのは、会見内容は犠牲者の絶望的な、しかも長年に及ぶ精神状態をまるで理解していない内容だったことだ。肛門セックスを強制された少年もいる。未成年なのに200回に及ぶ性的虐待を受けた人もいる。メディアが「性加害」という奇妙な言葉を使うのは解せない。欧米メディアは「性的虐待」と報じている。レイプを含む子どもの性的虐待は「魂の殺人」と呼ばれ、一生の間、精神を蝕む。喜多川氏はたった1人で、4桁の可能性もあるとされる犠牲者を生んだ。それだけの人々が魂の救済を求めている。どうやって解決するのか、全く不透明な会見内容だ。 「(東山氏らは)見事に演技したよね。破綻している」 喜多川氏を告発した「性加害問題当事者の会」で、8歳の時にオーラルセックスをされた俳優、服部吉次氏(78)は、ジャニーズの会見後こう語った。
ダメなお手盛り人事、組織的犯罪は見て見ぬふり、犠牲者救済には真摯に向き合わず。今回の会見は、犠牲者4桁という世界的に稀な犯罪を背負った会社が、最も破滅的な会見をした稀有な例として記憶されるだろう。(津山恵子)
(関連記事)アメリカのプロデューサーは、女優に性的暴行をしていた事件で、30年の禁錮刑に。会社も破綻した。
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。