アートのパワー 第16回 この一年を振り返って(上) アナ・メイ・ウオン(上編)

アートのパワー 第16回 この一年を振り返って(上) アナ・メイ・ウオン(上編)

 

ちょうど一年前に、友人達に説得されてこのコラムを書くことになった。50年以上アメリカに暮らし、そのうち37年間はマンハッタンにいる。そんな私だから気がつくことがあるのではないかと言われた。私の興味・関心はアートに向かっているので、できる限り幅広い範囲で、アートの話を取り入れることにした。この一年を経て痛感したことは、現在だけでなく、歴史的にも、アートがいかに社会的、政治的、文化的に深く共鳴しあっているかということだ。そして、このコラムで一度取り上げたアーティストの二人が最近話題になっているので、この一年の仕上げとして、この二人の後日談をまとめてみた。

 

アナ・メイ・ウオンのバービー人形(Amazon.comより)

一人目は、「アートのパワー 第3回」に書いた、中国系アメリカ人初のハリウッド俳優アナ・メイ・ウオン(霜柳黄)である。20世紀に活躍したアメリカ史上重要な女性20名の一人として、その肖像を描いた25 セント硬貨が発行された。発行開始から半年を経た2023年5月、アジア・太平洋諸島系アメリカ人歴史月刊を祝ってアナ・メイ・ウオンのバービー人形が販売された。1934年の映画『帰らぬ船出(Limehouse Blues)』で有名になった髪型、赤と金のチャイナドレス(旗袍)にマッチしたアクセサリー姿の人形で、バービー人形のメーカー、マテル社の「インスパイアリング・ウーマン・シリーズ」の一人として発売された。2018年、このシリーズで最初に発売されたのは、ジェーン・グドール(1934年生まれ。イギリスの霊長類学者・人類学者、チンパンジー研究の世界的第一人者)だった。この他、同シリーズにはアメリア・イアハート(1897-1837、女性として初めて大西洋単独横断飛行を行った)、マヤ・アンジェロウ(1928-2014、公民権運動活動家、ノーベル平和賞受賞、俳優、脚本家、ダンサー、詩人・著者)、フリーダ・カーロー(1907-1954、メキシコの画家)、ローザ・パークス(1913-2005、 公民権運動活動家、1955年アラバマ州モンゴメリーで公営バスの運転手の命令に背いて白人男性に席を譲らず、ジム・クロウ法違反の容疑で逮捕さたことで有名。アフリカ系アメリカ人による公民権運動の火付け役になった)、ビリー・ジーン・キング(1943 年生まれ。1960~1980年代初頭までの四半世紀にわたり女子テニス界に君臨した)等が含まれている。人形の箱には、それぞれが活躍した分野での業績・役割が説明されている。  

バービー人形は、1959年に発売された。同社の共同創業者の一人であるルース・ハンドラーと夫のエリオットが、ヨーロッパ旅行中スイスを訪れた際に女の子がドイツ製の大人向けのセクシーな人形と遊んでいるのをみて娘への土産に購入した。ドイツのタブロイド新聞『ビルト』に連載されていた大人向け一コマ漫画の主人公を製品化した人形(「ビルトリリ」)で、後にマテル社がこの人形の権利を買収した。当時の子供向け人形は赤ん坊の姿のものばかりだった。ファッショナブルな着せ替え人形バービーの市場での成功は、コカコーラに相応するアメリカ文化・ブランドの拡散を指す、米国型消費者資本主義の象徴とされている。

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文/ 中里 スミ(なかざと・すみ)

アクセアサリー・アーティト。アメリカ生活50年、マンハッタン在住歴37年。東京生まれ、ウェストチェスター育ち。カーネギ・メロン大学美術部入学、英文学部卒業、ピッツバーグ大学大学院東洋学部。 業界を問わず同時通訳と翻訳。現代美術に強い関心をもつ。2012年ビーズ・アクセサリー・スタジオ、TOPPI(突飛)NYCを創立。人類とビーズの歴史は絵画よりも遥かに長い。素材、技術、文化、貿易等によって変化して来たビーズの表現の可能性に注目。ビーズ・アクセサリーの作品を独自の文法と語彙をもつ視覚的言語と思い制作している。

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