連載1076 マアワビ、サケ、カキ—-などが食卓から消える!
海の中でも進む地球温暖化の深刻度 (下)
(この記事の初出は2023年8月22日)
なぜサンマは獲れなくなってしまったのか?
サンマの不漁もまた、地球温暖化による海水温の上昇と潮流の変化が原因だ。その結果、サンマは日本近海にいなくなってしまった。
サンマは回遊魚である。10℃〜15℃の水温を好み、産卵のため8月以降に親潮に沿って南下し、北海道から千葉県にかけて日本の沿岸を回遊する。それが、「暖水塊」(だんすいかい)の発生によって妨げられ、日本の沿岸にやって来なくなってしまった。
暖水塊は、日本の太平洋沖を北上する黒潮が高温にさらされることで渦になったもので、観測によると、直径200kmに達することもあるという。
つまり、サンマは、日本近海ではもう獲れないのである。
かつてサンマは北海道でもよく獲れた。サンマの水揚げの主要漁港の一つだった釧路港では、ピーク時の2007年に3万トン以上を記録したが、2022年はわずか25トンにまで落ち込んだ。
ただし、サンマが減少する一方で、適温が16℃〜21℃の温かい海水を好むブリの水揚げが増加しているというから、なんとも皮肉だ。温暖化による海の変化は、海の生き物の生態系を確実に変えている。
今年の海水温は調査開始以来最高を記録
気象庁によると、日本近海の海水温は、ここ100年で約1.24℃上昇していて、これは地球温暖化による気温上昇とほぼ同じだ。ただし、近年は海水温の上昇が激ししくなり、とくに今年は異常に上がっている。
8月9日に気象庁が発表したところによると、7月の三陸沖の海水温は、平年と比べて最大で10℃も高かったという。これは、1993年に調査を始めてからもっとも高い記録だ。
今年は世界的に海水温が異常に上昇していて、観測史上最高を記録している。EUの気象情報機関「C3S」(コペルニクス気候変動サービス)は、8月5に、世界の平均海面水温が7月下旬に観測史上最高を更新したことを発表した。
今年は4月ごろから高い状態が続き、7月30日に20.96℃を記録。それまでの最高値だった2016年3月の20.95℃を上回った。7月の平均海面水温は、91~20年の平均より0・51℃高かったという。
そのため、海水面の異常高温の際に南米沖で発生する「エルニーニョ現象」が、今年は太平洋の赤道域で見られ、7月の南極海の海氷面積は平年を15%も下回ったという。
人の体温より海水温が高い、風呂状態に
「C3S」の発表受けたBBCの報道記事『海水温が史上最高を更新、地球環境に厳しい影響』では、今年6月の英国の領海の海水温は、平均より3~5度も高かったと指摘されている。
さらにひどいのは、アメリカのフロリダで、「NOAA」(米海洋大気庁)によると、7月末に海面の温度が38.44℃を記録した。これは、人間の体温より海水温が高いということで、通常であれば海水温は23℃~31℃だという。
この状況に、NOAAでメキシコ湾の海洋熱波を観測しているキャスリン・レスネスキ博士は、「海に飛び込むとまるでお風呂のようだ」と語り、「フロリダの浅いサンゴ礁ではサンゴの白化が広がり、すでに多くのサンゴが死滅している」と警告した。
「IPCC」(気候変動に関する政府間パネル)によると、海洋熱波の頻度は1982年から2016年の間に2倍に増えている。また、1980年代から勢力も強くなり、期間も長くなっているという。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。