連載1078 活気づく「嫌中言論」
中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(上)
(この記事の初出は2023年8月29日)
不動産バブル崩壊に端を発した中国経済の大失速。そして、原発処理水の海洋放出への対抗措置としての日本の水産物の全面輸入停止。この2つの出来事により、いまや日本の「嫌中言論」はピークに達している。
しかし、中国がこのまま失速し、日本の「失われた30年」のようになっていくのを、喜んでいる場合ではない。この先に待ち受けるのは、日本経済の共倒れと、台湾有事かもしれないからだ。
日本人のなんと9割が中国を嫌っている
ここのところ、毎日のようにSNSやニュースサイトで、「ざまあみろ!中国」「ふざけるな!中国」といった内容の書き込みを見る。見るたびに、日本人はつくづく中国が嫌いなのだと改めて思う。
中国人も日本が嫌いだから、お互いさまだが、このままいくと、なにか間違いが起こり流のではと心配になる。
毎年行われている日中共同の世論調査(日本の非営利団体「言論NPO」と「中国国際出版集団」の共同調査。両国の18歳以上の男女1000人〜1500人が対象)によると、日中両国民のお互いに対する感情は本当に険悪だ。
2022年11月に公表された第18回調査結果では、中国に対する印象が「よくない」と答えた日本人は87.3%。10人にほぼ9人が中国が嫌いなのである。
この逆で、日本に対する印象が「よくない」と答えた中国人は62.6%である。この数字は、ここ数年ほとんど変わっていない。
日本人が中国によくない印象を持つ理由は、中国の「尖閣諸島周辺の侵犯」(58.9%)がもっとも多く、「政治体制に違和感を覚える」(51.5%)が、それに続く。
中国人が日本によくない印象を持つ理由は、「日本が侵略した歴史をきちんと謝罪し反省していないから」(78.8%)がもっとも多く、次いで「魚釣島周辺の国有化で対立を引き起こした」(58.9%)となっている。
経済崩壊と輸入停止で「嫌中」はピークに
いまや中国嫌いを全面に出した「嫌中言論」は、かってないほど活気づいている。「ざまあみろ!中国」のほうは、
このところの中国経済の大失速に対して、日本人の極端な感情露出と言える。
これまで何度も言われてきた経済崩壊が現実化してきたので、「それ見たことか」と言いたのだ。
「ふざけるな!中国」のほうは、言うまでもない、福島原発の汚染水海洋放出に対する対抗措置、日本産水産物の全面輸入停止に憤ったものだ。
汚染水の海洋放出が安全かどうかは、ここでは問わない。国内でも「安全でない」とやみくもに反対する人間たちがいるのだから、もはや科学を持ち込んでも意味がない。ただ、中国政府のやり方はあまりにも露骨で、政治的意図が見え見えだから、日本人は怒る。
飲食店から学校にまで、連日「嫌がらせ電話」が、何度もかかってくるのだから、怒りは加速する。
「そもそも、中国の原発のほうがトリチウム濃度の高い汚染水を放出しているではないか。ふざけているのか」「なに禁輸だと!ありえない!世界がいいと言ってんだぞ」など、いまやSNSの声は「嫌中」をはるかに超えている。
驚いたのは、「親中」としか思えなかった朝日新聞が、8月26日付の朝刊で、『中国の禁輸 筋が通らぬ威圧やめよ』と、中国政府を批判したことだ。
結局、朝日も日本の新聞だったと言うほかない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。