連載1080 活気づく「嫌中言論」
中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(中2)
(この記事の初出は2023年8月29日)
いま中国が実際に陥っている3つの困難
いまの中国経済は、いくつもの困難に直面している。そのうちの とくに問題な点を3つ示してみたい。
1つめは、言うまでもない不動産バブルの崩壊だ。
8月 17日にニューヨークの裁判所に破産を申請した不動産大手「恒大集団」(エバーグランデ)は、27日に上半期の決算を発表したが、それによると赤字額は330億元(約6600億円)、負債総額は2兆3882億元(約48兆円)。途方もない額である。
しかし、「恒大集団」より「碧桂園」(カントリーガーデン)のほうが負債額は大きいと言われ、デフォルト危機が高まっている。仮に碧桂園がデフォルトとなれば、バブル崩壊は決定的で、その規模は日本のバブル崩壊をはるかに上回る。
2つめは、地方政府の財政破綻リスクである。
中国の地方政府は、不動産の使用権を開発会社に売ることで財政を拡大させてきた。その過程で隠れ債務が増えた。地方政府が債券を発行するには中央政府の許可がいるが、抜け道として地方政府傘下の投資会社「融資平台」(LGFG)に資金調達を請け負わせる方法がある。この方法による負債が、IMFの試算では66兆元(約1320兆円)もあるという。
これは日本のGDPの2,5倍に当たり、まともな方法では処理できない。地方政府のデフォルトを防ぐために、今後、北京がなにをするか、世界の金融関係者が注目している。
3つめは、止まらない人民元の下落だ。
そのため、金融市場では10年物の国債利回りが2.5%に低下し、米中の金利差が広がりつつある。人民元はいまや円と並んで売られる一方になっている。すでにドル元は7ドルを上回り、中国からの資金流出が止まらなくなっている。
この3つの困難に、消費不振、失業率の高まり、輸出減速などが加わり、中国経済の先行きはまったく不透明になった。
異例の人事続発は習近平の焦りの現れか?
経済の大減速は、政治の混乱を招く。習近平独裁下の人事が、過去にない異例の事態になっている。
大きな話題になったのは、外相の秦剛の1カ月にわたる動静不明と突然の解任である。その真相はわからないままだが、香港のテレビ局の美人キャスターと不倫がうわさがあったことは事実で、これが影響したと言われている。ただ、中国共産党の幹部は多くが愛人を持っているのに、なぜ、秦剛だけが解任されたのだろうか?
そして、誰もが驚いたのが、中国人民銀行(中央銀行)の総裁に、潘功勝と言う無名の人間が就任したことだ。この人事により、国際金融界で信頼があった易綱・総裁は退任した。
潘功勝・新総裁は、ケンブリッジ大学やハーバード大学で研究した実績があり、国際派とされるが、党内の序列上位約380人の中央委員や中央委員候補に入っていない。そんな人物が中央銀行のトップにいきなり就いた例は過去にない。
さらに驚いたのは、人民解放軍のロケット部隊の司令官、政治委員ら幹部が総入れ替えされたことだ。香港メディア
は、司令官と政治委員を同時に交代させる人事は「極めて異例」だと伝えた。この人事は、習近平による軍の引き締めとされるが、なぜいま、そんなことをする必要があったのかは不明だ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。