連載1082 活気づく「嫌中言論」
中国経済の大失速をそんなに喜んでいいのか?(完)
(この記事の初出は2023年8月29日)
大打撃を受けるのはほかならぬ日本
今日までアメリカは、着々と「脱中国」を進めてきた。その結果、中国からの輸入は徐々に減って、いまや中国は最大の貿易相手国ではなくなった。
2023年1月~6月におけるアメリカの中国からの輸入は2029億ドルと前年同期比で約25%も減少、輸入額全体に占める割合も13.3%減少した。
中国が減少した分、トップになったのがメキシコで、中国はカナダにも抜かれ3位となった。
しかし、日本は、いまもなお中国が最大の貿易相手国であり、日本企業の中国撤退は進んでいない。対中投資も極めて多い。
そのため、昭和の時代は「アメリカがクシャミをすると日本は風邪を引く」だったが、令和のいまは、アメリカが中国にとって代わり、「中国がクシャミをすると日本は風邪を引く」になっている。
なにしろ、中国に依存しないとデジタル化もグリーン化も進められないうえ、中国の製造業に工材や部品を提供しないと日本のものづくりは成り立たない。
「ざまあみろ!中国」などと言えば、その言葉はブーメランとなって日本に帰ってくるのだ。
現在、中国に進出した日本企業は、経済失速と中国の反スパイ法にビクビクしている。いまだに、3月に拘束されたアステラス製薬現地法人トップの無説明拘束が続いている。「どうする家康」ではないが、「どうする日本」が切実な大問題である。
台湾侵攻が現実になったら日本はお手げ
経済大失速による国民の不満を交わすため、習近平政権は台湾侵攻に踏み切るという見方がある。異例の3期目に入って独裁化を強める習近平にとって、台湾併合は最大の政治課題である。
よって、政府の求心力の低下を避けるため、台湾カードを早めに切るというのだ。
この話が真実性を帯びるのが、最近、中国企業が欧米に保有している不動産などの資産を、次々と売却していることだ。万が一、台湾有事となれば、西側諸国は海外にある中国資産を凍結する可能性がある。ウクライナ戦争を見ればわかるように、ロシアの海外資産は凍結された。
台湾有事となると、これもまた日本が大きなダメージを受ける。台湾有事での大問題は、いくら「台湾防衛」を言っているからとはいえ、アメリカが本気で中国と戦うかどうかだ。また、戦ったとしても、中国本土の基地は叩かないことは明白である。これはウクライナ戦争を見れば、即座に理解できる。
となると、中国は全力で米軍・台湾軍を攻撃して多大の損害を与えるだろう。その一方で、日本は自衛隊を参戦させるかどうかで大もめになる。参戦のためには台湾有事を日本の「存立危機事態」と認定したうえで国会の承認が必要になる。はたして、日本国民にそんな勇気があるだろうか?
中国経済の大失速を「嫌中」から、他人事のように見ているなどとは、とうていいかないのだ。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。