連載1083 間もなく終幕する”東芝劇場” 「保身第一主義」が日本企業をダメにした!(上)

連載1083 間もなく終幕する”東芝劇場”
「保身第一主義」が日本企業をダメにした!(上)

(この記事の初出は2023年9月5日)

 先週来、そごう・西武は、米投資ファンドへの売却をめぐって、西武池袋本店でストライキが起こるなど、世間を大きく騒がせている。メディアの論調はストに同情的で、投資ファンドに対しては批判的だ。
 しかし、会社が売り買いされるのは、資本主義である以上当たり前のこと。投資ファンドを敵視すればするほど、日本企業は衰退していく。
 そこで思うのが、いま進んでいる東芝のM&Aによる解体劇場。一部報道は、このM&Aが東芝復活のラストチャンスになると言っているが、そうはいかないだろう。東芝の解体は、政府と組んで「保身」に走った日本の大企業の凋落の象徴である。なにしろ、東芝は54億ドルで買った会社「ウェスティングハウス」(WH)をたった1ドルで売却し、その後、WHは投資ファンドによって再生され、78億ドルで売れたのだ。こんな、馬鹿げた話はありえない。 

 

結局8500万円で叩き売られる

 セブン&アイHDは、8月31日、臨時取締役会を開き、傘下のそごう・西武を9月1日付で米投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」に株式を譲渡することを決定した。このとき、池袋西武本店では大手デパートしては61年ぶりという労働組合によるストライキが行われていたが、売却は既定路線で、ストライキはまったく無意味だった。
 ちなみに、売却額は8500万円。企業価値は2200億円とされたが、有利子負債が3000億円あったため、フォートレスはセブン&アイに916億円の債務放棄をのませたうえで、差し引き8500万円で合意したという。
 この結果、フォートレスはそごう・西武が保有する池袋本店の土地などを、連携する家電量販大手のヨドバシHDに3000億円弱で売却することになり、そごう・西武はヨドバシに入居するテナントの一つになることになった。
 経営に失敗して赤字続きの部門を切り離し、それを投資ファンドが買う。こういうことは珍しいことではない。セブン&アイHDの経営陣がとった措置は極めて妥当だと思われる。
 では、なぜ、ストライキが起こったのだろうか?

労働組合のストライキにメデイアは同情的

 近年では珍しいストライキが起こったのは、労働組合が雇用の維持を強く求めたからだ。また、池袋西武という地元に親しまれたデパートが変質してしまうことへの抗議もあった。そのため、売却時期は、これまで2度も延期されてきた。
 しかし、“赤字垂れ流し”のそごう・西武を保持することは、セブン&アイHDにとってはもはや限界だった。2006年にそごう・西武を子会社にした後、いくつかの改革を行なってきたが、その改革はことごとく失敗した。セブン&アイHDにはコンビニ経営のノウハウはあったが、デパート経営のノウハウはなかったということだろう。
 また、デパートいう業態そのものが、もはや時代にそぐわなくなっており、それに逆らうことはできなかったと言える。
 しかし、多くのメディアは、そういうことを厳しく指摘せず、ストライキを行う労働組合に同情的で、池袋から周辺住民に親しまれたデパートが消えるという“感傷報道”に終始した。そのため、まるで買収するファンドが「悪者」であるかのような扱いになった。
 しかし、資本主義である以上、会社の売買は当たり前だ。そうでなければ、資本主義は発展しないし、社会も進歩しない。


(つづく)

この続きは9月26(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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