連載1084 間もなく終幕する”東芝劇場”
「保身第一主義」が日本企業をダメにした!(中)
(この記事の初出は2023年9月5日)
「再建のラストチャンス」という報道
日本では、会社が売買されることが、悪いことのように思われている。とくに、それを行う海外の投資ファンドは、かつては「ハゲタカ」と呼ばれて、毛嫌いされた。とくに「もの言う株主」と揶揄されるアクティビストは、さらに毛嫌いされてきた。
それで、今回のそごう・西武の買収劇で想起されるのが、いま進んでいる東芝のM&Aによる“解体劇”である。
東芝は、これまで海外のアクティビストなどによって経営が迷走し、経営不振から立ち直れないできた。そのため、JIP(日本産業パートナーズ)という日本企業主体のプライベート・エクイティファンドがTOB(株式公開買い付け)を実施し、再建を目指すことになった。もちろん、これには日本政府、経済産業省が大きく絡んでいる。
しかし、どう考えても、この再建は無理筋で、東芝は解体されるしかないと言うのが、私の見方である。
ところが、産経新聞などの「愛国メディア」の見方はまったく違う。8月27日付けの産経新聞は『東芝、非公開へ大詰め 名門企業再建の”ラストチャンス”か』というタイトルで、次のように報じている。
《東芝の再建の行方を大きく左右する株式非公開化のプロセスが大詰めを迎えている。投資ファンド、日本産業パートナーズ(JIP)などの企業連合がTOB(株式公開買い付け)を実施中。成立の可能性は高く、東芝は非上場となり、アクティビスト(モノ言う株主)に振り回されることなく再建に集中できると期待されている。再来年に創業150周年を迎える名門企業にとって、今回が再建のラストチャンスになるとの見方は強い。》
経営陣がアクティビストを自ら引き入れた
JIPは、日本企業の事業再編・経営支援のために立ち上げられたファンドで、みずほ証券、」NTTデータなどの日本企業のほかにベイン・アンド・カンパニー日本法人などが出資している。いわば「オールジャパン」である。
今回は、半導体大手のローム(3000億円)などのほか、三井住友銀行などの金融機関(総額1兆4000億円)が大口拠出し、9月20日までTOBを行う。そうして、TOBが成立すれば、東芝の上場は廃止される。
東芝がアクティブビストに振り回されたのは、債務超過に陥ったのに上場維持のために6000億円の第三者割当増資を行ったからである。その結果、多くの外国人株主が誕生し、そのなかに強力なアクティビストがいたためである。つまり、経営陣が自ら招いたことであり、身から出た錆である。
それを、今回のM&Aでアクティビストが排除されるので、再建が可能というのは、どこから見てもおかしな見方だ。なぜなら、アクティビストたちは、東芝に出資すれば儲かるとして投資し、再建案を提案してきたからだ。
(つづく)
この続きは9月27(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。