連載1085 間もなく終幕する”東芝劇場”
「保身第一主義」が日本企業をダメにした!(下)
(この記事の初出は2023年9月5日)
アクティビストはまだ企業価値があると判断
投資ファンドが経営不振で傾いた会社に出資するのは、アホな経営陣を排除すれば再建できる、資産を売却すれば儲かると考えるからだ。つまり、彼らは東芝にまだ企業価値はあると判断したのだ。
しかし、東芝が傾いたとき、日本の金融機関は、出資要請に見向きもしなかった。不祥事ばかりしてきた経営陣を信用できなかったからだ。
それが、今回、JIPが動いたのは、日本政府、とくに経済産業省が裏で強く要請したからだ。経産省は、“国策企業”と言える東芝が経営不振に陥る原因をつくったというのに、その失敗を糊塗するために、JIPを動かしたのである。
今年の6月の株主総会で、経営の混乱の解消を目指して株式を非上場化する方針について、島田太郎社長は集まった株主たちに理解を求めた。
そして、TOBが始まると、「これで安定した株主構成になる」と安堵の表情を見せた。しかし、安堵したのは、自分の保身に成功したからだろう
アクティビストの排除が事実上の目的というTOBは、本末転倒ではなかろうか。
54億ドルで買った会社を1ドルで売却
ここで、東芝がいかに馬鹿げた、信じられない経営をしたか、その象徴的な出来事を振り返ってみよう
東芝がやったことは、「54億ドルで買った会社をたった1ドルで売り、買った側はその会社を78億ドルで売った」という事実に、すべてが象徴されている。
その会社というのは、言うまでもない米の原子力大手「ウェスティングハウス」(WH)だ。東芝は2006年にWHの株式を54億ドル(当時の円レートで約6000億円)で買収して子会社にした。
このWHが2017年に経営破綻し、関連損失が1兆2000億円を超えたため、東芝はWH向け債権9100億円を7割超引きの2400億円でカナダの投資ファンド「ブルックフィールド」に投げ売りし、保有していた株式は実質無償譲渡(売却額1ドル)を強いられた。つまり、事実上、1株1ドルで売ったのだ。
で、その後WHがどうなったかというと、昨年(2022年)10月に、カナダのウラン生産会社カメコを中心とする企業連合がWHを投資ファンドから買ったのである。その買値は、なんと78億ドル(当時の円レートで1兆1600億円)。
この事実が示すのは、投資ファンドは見事にWHを再生した。借金のためにタダ同然で株を売った東芝は、バカの典型ということだ。
(つづく)
この続きは9月28(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。