連載1092 覇権国アメリカの「内憂外患」 万引き、不法移民、高齢大統領、ウクライナの「4重苦」(完)
(この記事の初出は2023年9月12日)
2024年春までには決着をつけたいバイデン
ウクライナ戦争はかたちがどうであれ、いつか終結させねばならない。そうしないと、バイデンは際限なくウクライナを援助しなければならなくなる。
アメリカはこれまで、武器を小出しにしてきたが、これは、バイデンの決断力のなさ、臆病さの表れだ。プーチンのほうがよほどハッタリが上手い。
いまバイデン が目論むのは、2024年11月の大統領選挙までに、戦争の決着をなんとかつけたいということだ。そうしないと、仮にトランプが共和党候補となった場合、停戦、援助縮小あるいは停止を強く主張するので、バイデンは不利になる。
ウクライナ反転攻勢の帰趨は、ドイツのM1エイブラムス戦車と、アメリカのF-16戦闘機の供与にかかっている。エイブラムスはこの秋中に、F-16はパイロットの訓練を含めて来年の春ごろまでには供与されるという。ただし、この予定がずれ込めば、バイデンは不利になり、アメリカの世界覇権はさらに後退してしまう。
起訴されてもビクともしないトランプ支持率
来年、2024年に、アメリカがはたしてどうなるかは、予測が難しい。大統領選挙があるからだ。
仮に、民主バイデン 、共和トランプということになり、トランプが返り咲くようなことが起こると、アメリカの世界覇権はさらに後退するだろう。なぜなら、トランプは覇権などには興味はなく、どんな戦争も嫌いで、ウクライナを強引に停戦させてしまうはずだからだ。
それにしても、トランプ人気は高い。
トランプは今年になって4回も起訴されている。1回目はューヨーク州マンハッタン地区の地方検事による、過去に関わったポルノ女優らへの「口止め料」支払いの罪。
2回目は、フロリダ州南部地区の地方検事による、政府機密文書を持ち出して国防情報の故意の保持をしたことの罪。
3回目は、ワシントン地区の連邦検事による、連邦議会へ乱入するよう暴徒を扇動した罪と、前回の大統領選挙で、ジョージア州など合計7州での投票集計に不当な工作を行った罪。
そして4回目が、ジョージア州フルトン郡の地方検事による、前回の大統領選挙でジョージア州の投票集計を、トランプとその側近が虚偽の通告や不当な圧力で変えようとした罪。
この4回とも、トランプは全面否認し、無罪を主張。基礎を「魔女狩りだ!」として、支持者に訴え続けてきた。
トランプ返り咲きで世界はますます混迷に
4回も起訴されれば、誰もが、トランプは支持を失い、大統領候補のレースから脱落していくだろうと考える。少なくとも、日本人はなぜトランプがそこまで支持されるのかわからない。
しかし、トランプは起訴されるたびに支持率を上げてきた。さらに驚くのは、共和党のテレビ討論会に欠席したにもかかわらず、共和党候補としてダントツの支持率(52%、2位のデサンティス13%)を誇っている。
日本人がわからないトランプの高支持率は、前述した2点。「万引き横行」「不法移民激増」による社会不安が大きく影響している。
しかし、トランプが大統領に返り咲けば、もっと大変なことが起こる。とくに日本にとっては最悪だ。彼は、なんと言っても「自国優先主義」(アメリカファースト)で、世界のことなど顧みない。ウクライナ援助を止めて、たとえロシアが有利だろうと強引に停戦に持ち込むだろう。また、中国は経済相手として敵視しても、台湾有事などには関心を示さないだろう。
国内的には、軍事費を削り、輸入品に関税をかけるという保護主義経済政策を推進し、経済以外は世界情勢に不介入を貫くだろう。そうなれば、パクスアメリカーナという世界は消えてゆき、世界は一転してナショナリズムが対立する無秩序ワールド、混迷ワールドと化す。
人類が共同で地球温暖化に立ち向かうなど、ただの夢物語になってしまうだろう。
(つづく)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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