連載1095 1年後に迫った米大統領選:トランプ復権が“悪夢”となるこれだけの理由(中2)
(この記事の初出は2023年9月19日)
トランプが起訴された4つの罪とは?
ジョージア州におけるトランプの起訴は、3年前の大統領選挙で敗れた際に、ジョージア州の当局に、トランプ陣営が結果を覆すよう圧力をかけたというもの。
この起訴以前にトランプは3回も起訴されていて、その1つは、ワシントンDCの連邦大陪審によるもので、ジョージア州での起訴内容とほぼ同じだ。
すなわち、トランプは事実でないと知りながら「選挙で不正があった」などと主張し、選挙結果を確定する手続きを故意に妨げ、弁護士などと共謀して国家を欺こうとしたというのである。
ジャック・スミス特別検察官は議会への乱入事件について「アメリカの民主主義に対する前代未聞の攻撃でウソによってあおられたものだ」と述べ、トランプを厳しく批判した。
残りの2つの起訴のうちの1つは、ニューヨーク州でのもので、トランプが不倫相手のポルノ女優への口止め料の支払いを隠蔽するためビジネス記録を改ざんしたというもの。もう1つは、司法省によるもので、大統領在任中に手に入れた機密指定の文書をフロリダ州の私邸「マール・ア・ラーゴ」に権限なく持ち出し保管していたという罪だ。
裁判を引き伸ばし大統領になって自分に恩赦
いずれの起訴も有罪になる確率が高いとされるが、その判決が出るのは大統領選の後になると言われている。現在、トランプ陣営は、4つの事件の裁判の日程と判決を大統領選挙後にするよう働きかけていて、いずれの裁判も大統領選までには終わらないとの見方が強いのだ。
さらに、そうしてトランプが大統領選に勝って再び大統領になったら、自分自身に恩赦を出す。大統領が大統領自身の罪を帳消しにしてしまうのだ。そんなことがあっていいのだろうか?
ただ、前例がないため、法律の専門家の見方は分かれている。もちろん、トランプは「可能だ」と主張し続けている。そもそも刑事裁判を抱えたまま、大統領に就任した人物は、過去に例がない。
激戦州3州の結果で勝敗はどちらにも転ぶ
こうして見てくると、よほどのことが起きない限り、大統領選はバイデンとトランプの再対決になる。そして、そうなった場合、大接戦になるのは必至だ。
これは、前回の得票を見るとはっきりする。
大統領選に勝つには、各州に割当てられた「選挙人」(elector)を出来るだけ多く獲得しなければならない。この点で、前回はバイデンが306人、トランプが232人だった。一見すると、差が開いているように思えるが、得票数ではバイデン約7500万票に対しトランプ約7100万票で、約400万票しか差がないのだ。
では、なぜ、バイデンが選挙人数でかなり上回ったかというと、得票率が1ポイント以下の僅差だった3つの激戦州を制したからだ。
ジョージア、ウィスコンシン、アリゾナの3州である。
ということは、この3州をトランプがひっくり返せば、両者の選挙人の数は269人で並ぶ。つまり、激戦州の行方次第で、勝敗はどちらにも転び得るというわけだ。
はっきり言って私は、バイデン、トランプのどちらも御免こうむりたい。これはアメリカ国民自身も同じだろう。各種世論調査によると「どちらも望まない」という人間は多い。
なにしろ、2人とも高齢なうえ、問題を抱え過ぎている。そして、どちらになっても、アメリカの分断は深まり、世界は混乱するだけになる。
ただ、どちらかと言えば、やはりバイデン である。とくに日本にとっては、トランプが復権したら、それは“悪夢”でしかない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。