津山恵子のニューヨーク・リポート
Vol.18 アジア人俳優の苦節を訴え 俳優組合のスト、3カ月に
「過去、私のような顔をした俳優は、テレビに映っていなかった。今は当たり前に出演している!」 と、中国系俳優がメガホンに向かって叫ぶと歓声が上がった。
9月28日、米映画俳優組合(SAG-AFTRA、組合員16万人)のアジア系俳優らが非白人俳優らと団結し、ニューヨーク市内のワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー社前で抗議行動を繰り広げた。俳優らは7月にスト入りしてから連日午前、同じ場所でピケを張っている。この日はアジア系俳優や脚本家らが中心になった行動日となった。
最も成功した中国系アメリカ人劇作家とされるデビッド・ヘンリー・ウォン氏が、メガホンを取った。
「両親や祖父母が、私たちがより良い生活ができるようにと願いを込めて、自らを犠牲にしたレガシーを忘れないようにしよう」 「だから今は私たちが自らを犠牲にするべきだ。多様な人種の俳優や脚本家が将来、共に繁栄するためにも!」
Law & Order: Special Victims Unitでお馴染みのフィリピン系俳優ジョエル・デ・ラ・フエンテ氏は、撮影が停止していたストリーミング番組のスタジオが単独で出演俳優らと条件交渉を行い、暫定合意に至ったと発表した。 「10月には撮影に戻る。このスタジオが条件を飲めるなら、他のスタジオもできるはず。団結を続けよう」 メガホンの後ろにある同氏の目が潤んでいた。この時点でストは、80日余りに及んでいた。
60年ぶりに共同ストに入っていた全米脚本家組合(WGA)は実は、前日に制作会社側と暫定合意にこぎつけていた。このため、決裂していた俳優組合と制作会社側の交渉日が10月2日に決定。合意に向けて弾みがつくかとみられていた。しかし、両者が歩み寄ることはなく、ストは現在3カ月に及ぼうとしている。
この間、俳優らは家族を抱え、収入を得るために俳優業以外の職に就くことを強いられている。 「多くの俳優が家を売ろうとしたが、売ったところで、収入がないためにアパートさえ借りられない」 とフエンテ氏。
俳優らの要求の焦点は、賃上げだけではない。深刻なのは、AIで作った「AI俳優」の台頭だ。現在公開中の「ジョン・ウィック:コンセクエンス」は、キアヌ・リーブス演じる殺し屋が3時間ちかく敵を撃ちまくる。数百人もいるかと思う敵が、全員リアルなエキストラだったとは思えない。俳優らの職を奪っているAI俳優らの存在はすでに脅威だ。
いつ終わるか分からない俳優らのスト。俳優らはインタビューが終わると「来てくれてありがとう」と笑顔を見せた。心から、団結を伝えたい。
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。