連載1096 1年後に迫った米大統領選:トランプ復権が“悪夢”となるこれだけの理由(中3)

連載1096 1年後に迫った米大統領選:トランプ復権が“悪夢”となるこれだけの理由(中3)

(この記事の初出は2023年9月19日)

 

なぜそこまでトランプを支持するのか?

 なぜ、トランプが悪夢なのか?
 それを述べる前に、それにしても、なぜ、ここまでトランプ人気は高いのだろうか?について、述べておきたい。
 日本なら検察に起訴されただけで、政治家の支持率はガタ落ちになるはずだ。それが、トランプの場合は、起訴されればされるほど支持率を上げている。
 トランプには「岩盤支持層」がいることが知られている。 
「NYタイムズ」の共和党支持者への世論調査では、共和党内のトランプに対する熱心な支持層は37%に達していて、その数は一定だという。
 この岩盤支持層は、前回の大統領選で明らかになったように、主に中西部のラストベルトにいる貧しい白人層が中心だ。もちろん、全土にそうした人々はいて、こと白人に関しては、共和党はいまや下層中間層と底辺層の政党となり、民主党は明らかに上層中間層、富裕層の政党となった。
 したがって、トランプ支持者は、社会の多様化、グローバル化、デジタル化についていけず、取り残されたという意識が強い。移民に対しては非寛容で、とくに中南米諸国出身の移民・不法移民はアメリカ文化の破壊者として毛嫌いしている。この層に、トランプは常に「あなたがたが悪いのではない。ディープステート、社会が悪いのだ」というメッセージを送り、そのため、彼らにとってはトランプが“救世主”のように見えるのだ。
 トランプが言う“アメリカファースト”は、「あなたのようなアメリカ白人ファースト」と言うことである。だから、前回トランプが大統領になるプロセスで、右派ポピュリズムがどんどん強くなった。
 この時代遅れの右派ポピュリズムを基盤に政治を行うとどうなるか? アメリカ国内はいいとしても、それが世界に及べば、どうなるだろうか?

棍棒を振りかざし譲歩を迫るトランプ外交

 前回の大統領時もそうだったが、トランプ外交は「パンドラの箱」である。どんな“災い”が飛び出してくるかわからない。とくに、日本は、その災いをもっとも受ける。
たとえば、トランプは前回の大統領時、日米安保条約の「片務性」に不満をぶちまけ、安倍首相を「守ってほしいならもっとカネを出せ」と脅した。これを日本は受け入れたため、現在の岸田政権はバイデン政権になっても、破格の軍事費増強路線を突っ走ることになった。
 トランプが復権すれば、アメリカ外交は前回の続きになるのは間違いない。つまり、“アメリカファースト”でアメリカの国益が最優先だから、同盟国も競合国も、反米国も関係ない。
 いわゆる「棍棒外交」(Big Stick Diplomacy)で、どんな国にもアメリカの国益を押し付けて譲歩を引き出し、最終的に「ディール」(deal:取引)する。なにしろ、北朝鮮の“ロケットマン”とも直接交渉し、「米韓同盟」の破棄までちらつかせたことは記憶に新しい。
 となれば、台湾有事、尖閣問題で、中国と厳しく対峙する日本にとって、いいことはなにもない。トランプはディールが成立しないとすぐに見向きもしなくなるので、台湾を見捨てる可能性だってある。尖閣でなにが起こっても放置するだろう。


(つづく)

この続きは10月16日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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