津山恵子のニューヨーク・リポートVol.19
ダブルスタンダードの欧米支援
イ・パ軍事衝突、日本は「静か」
イスラエルと、パレスチナ自治区を実効支配するイスラム組織「ハマス」の軍事衝突には、モヤモヤしている。不条理の感がつのる。なぜか。
まず、ハマスがイスラエルを奇襲し、200人以上の民間人を人質にした。これは、間違いなく非人道的な「残虐行為」だ。イスラエルはガザ地区を空爆し、欧米諸国が即座にイスラエルへの支援を表明した。しかし、気をつけなくてはならないのは、ガザ地区のパレスチナ人、イコール、ハマスではない。なぜ、ハマスではない民間人が2週間以上も空爆のターゲットになり、命を落としているのか。
同様に、ハマスの奇襲の背景もクリアにしたい。イスラエルは、パレスチナ人を蛇蝎の如く嫌い、自治区に閉じ込めた。物資や水、エネルギーの調達は自治区の管轄ではなく、現在は完全に絶たれている。私は、イスラエル人が国連で「パレスチナ人は、ノーボディだ」と発言したのを聞いたことがある。この不条理な憎悪を受けて、パレスチナ人もイスラエル人を憎んだ。軍事組織であるハマスはパレスチナ人の憎悪を利用して支持を得るため、イスラエルを攻撃し続けてきた。
現状に戻る。ガザ地区には10月22〜23日で320発、23〜24日で400発が着弾した。死亡者は5800人で、子供の死亡者は2400人を超えた。父母は生きている子供の手足に名前を書いて、命を落とした際に識別できるようにしている。病院の発電機には限界があり、新生児集中治療室(NICU)の生命維持装置がいつまで保つのか。
一方、ハマスが放つミサイルは、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」から発射される地対空ミサイルが、ことごとく撃ち落としている。まるでイスラエル上空を鉄のドームで覆っているかのように、ミサイルは昼間の花火のように上空で煙として消える。イスラエル側の死亡者が1400人とガザ地区よりかなり少ないのは、このお陰だ。
つまり、イスラエルとパレスチナの「体力」は明白で、今後もどちらの民間人がより多く命を落とすのかも自明だ。それなのに、軍事衝突が起きた当初、欧米諸国はこぞってイスラエルを熱狂的と思えるほど支持した。これは、軍事大国ロシアがウクライナに侵攻した際、「国際法違反」「残虐行為」と一斉にロシアを非難したのと異なる。欧米諸国がしていることは「ダブルスタンダード」ではないか。これがモヤモヤの原因だ。
ニューヨーカーは、「反ハマス」「反イスラエル」双方が立ち上がり、連日のデモで対立し逮捕者が出ている。一方、軍事衝突後に私が訪れた日本は、静かだった。ご近所にユダヤ人も中東の人もいないと、戦さも遠く感じるが、いやそうであってはならない。
グテーレス国連事務総長はこう断じた。
「我々がガザで目にしているのは明白な国際人道法違反であり、私は深く懸念している。いかなる当事者であっても、国際人道法の上に立つものはいない」
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。