第7回 教えて、榊原先生!
日米生活で気になる経済を専門家に質問
「ドルと円で給与を得ている場合の資産形成について」
Q.米で駐在員として勤務しており、ドルと円の両方で給与を受け取っています。円安が進む中、資産形成においてどちらに資産を置き、どんな方法で運用すれば安全性が高いでしょうか?
紙面が限られるため詳細な記述は出来ませんが、考えるポイントを挙げておきましょう。
まず始めに明確にすべきは、通貨の分散と資産形成のための分散は必ずしも同じでないことです。「どの通貨で持つか」という点は、お金を使うという視点に関わります。使うためには、どの通貨で持っていようと、決済する通貨に換える必要が生じることから免れません。その点では、増やせる可能性より、どう購買力を守るかがカギになります。一方、資産形成は、もちろん最終的には「使う」ために行うにせよ、当面は逆に「使わない」を前提に、リスク・リターンのバランスを自分の人生設計に適したベストな選択にして中長期的な展望での増価を狙います。
受け取った給与について、当面の生活費(レジャー等を含む)のための流動性資金(現預金あるいは相当物)として保有しておく通貨を考える場合は、第一に、どこで使うか(決済するか)という計画が重要になるでしょう。そして、そのあと同時に、決済に使う通貨の為替レートについて特定の見解を持つかという問いが続きます。なぜなら、どこで使おうと、特定の見解を持つなら、それに基づいた取引をすれば良いだけのことだからです。
しかし、プロの投資家はともかく、普通なら1つの為替レートが決済のタイミングで今より上がっているか下がっているかの予想を定め、それに基づいて取引するのを恐れない自信家はギャンブラーです。日々変動する金融資産の価格は、予想の方向性が総じて正しいとしても、ある一定の短期間に予想外の動きをすることは少なくありません。使うことが視点であれば、流動性資金の保有にこのようなリスクを取るのは適切とは言えないやり方です。
安全に決済に備えるには、「どこで使うか」の割合に合わせて保有するのがベストだろうと思われます。決済に際して変換する必要がないのですから、購買力が確実に守られます。もし、その割合が全く定かでないならば、同じウェイト(2か所なら半々)で良いかもしれません。「使う」のために確保しておく現預金は、特定の見方でリスクを取るより、こうした割合になるようドルコスト平均法で調整していくのが中立的な正攻法です。
一方、当面は「使わない」資産形成のための投資運用は、増やすための適度なリスクを取る行動。日本では、FXなど手軽に出来る点から外貨で儲けるという発想が比較的ポピュラーですが、むしろ通貨は難しい資産クラスと言えます。リスクを取るのは、多様な資産に分散するのが良いでしょう。一般論として投資対象を広げるほどリスク低減効果が高まるので利用すべきです。
その際、ドル円で円安が進んだという状況は一つの小さな材料でしかなく、他の様々な要因に基づいてよりリスク・リターンのバランスが良い資産に投資対象を広げて保有するのが望ましい。当面は「使わない」のですから一定のタイミングで為替レートが有利になるか不利になるかは重要でなく、必要に応じて有利になるタイミングを待って変換し、「使う」方の流動性資産のプールへ移動すれば良いわけです。言うは易し・・かもしれませんが。
先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。