連載1100 これでは日本は守れない!   防衛費増額の“支離滅裂”な使途(つかいみち)。 (中1)

連載1100 これでは日本は守れない!
  防衛費増額の“支離滅裂”な使途(つかいみち)。 (中1)

(この記事の初出は2023年9月26日)

7つの柱のメインは「ミサイル・デフェンス」 

 2024年度の防衛省予算(概算請求)の中身は、2023年度とほぼ変わらない。前記したようにその延長線上にあり、次の7つの柱で成り立っている。
(以下は、防衛庁のHPからのダイジェストだが、箇条書きにしたので、読み飛ばしてもらって構わない)
1、スタンド・オフ防衛能力:約7551億円
 ▽「反撃能力」保持のために、三菱重工製の国産のミサイル「12(ひと・に)式地対艦誘導弾」を改良・開発▽アメリカの巡航ミサイル「トマホーク」の購入▽「極超音速誘導弾」の研究など。
2、統合防空ミサイル防衛能力:約1兆2713億円
 ▽ミサイル防衛システム確立のため、「イージス・アショア」の代替策として建造する「イージス・システム搭載艦」(1番艦、2番艦)の整備▽警戒管制能力の強化など。
3、無人アセット防衛能力:約1184億円
▽攻撃型の無人機として、ミサイルを積めるドローンや自爆型のドローンの取得、研究。水上、水中ドローンも。
4、領域横断作戦能力
 陸海空の通常の領域に加え、宇宙(衛星の活用による情報収集機能の強化等)、サイバー(セキュリティ対策の強化、サイバー要員の育成等)、電磁波(電子戦能力、電磁波管理機能の強化等)などの領域での能力強化。
(1)宇宙領域における能力強化:約1654億円
 ▽ほかの国の衛星の動向などを把握する「SDA衛星」を製造・整備▽画像解析用データの取得など。
(2)サイバー領域における能力強化:約2303億円
▽装備品や施設インフラを含む情報システムの整備▽クラウドの整備▽陸上自衛隊の全システムの防護、監視、制御等を一元的に行うシステムの整備▽サイバー要員を育成など。
(3)電磁波領域における能力強化
▽通信・レーダー妨害能力の強化▽小型無人機等への対処
▽敵の電磁波の影響を受けにくいステルス戦闘機「F35」15機取得など。
(4)陸海空領域における能力:約1兆3787億円
▽機動迫撃砲の取得(8両)▽10式戦車の取得(10両)▽潜水艦の建造(1隻)▽掃海艦の建造(1隻)▽回転翼哨戒機の取得(6機) ▽戦闘機(F-35A8機、F-35B7機)の取得など。
5、指揮統制・情報関連機能:約6862億円
 ▽中央指揮システムの整備▽情報収集・分析用器材の維持・整備(ウクライナ戦争での「情報戦」の教訓を生かす)▽AIで意思決定を支援する研究など。
6、機動展開能力・国民保護:約5951億円
 ▽南西地域での機動尿力向上のための「自衛隊海上輸送群(仮称)」の新編▽機動舟艇の取得(3隻)▽輸送ヘリコプター(計33機)の取得など。
7、持続性・強じん性
(1)弾薬の確保:約9303億円
(2)装備品等の維持整備:約2兆3515億円
(3)施設の強靱化:約8043億円

陸上自衛隊に巨額をつぎ込むという愚策

 最初に指摘したいのは、陸海空の3軍のなかで、陸上自衛隊の予算額がいちばん大きいということだ。増額前までの防衛予算は5.5兆円前後で、そのうち、陸自が約2兆円で約35%、海自、空自がそれぞれ約1.5兆円で約25%という構成だった。この構成比は、増額予算でも変わらない。
つまり、増額した分を、どの分野に重点的に投入するか、その戦略的思考がないのである。
 なぜ、日本のような海洋国家に、これ以上、陸軍の増強が必要なのか?これはどう考えても解せない。
 陸自の増額予算は、主に戦車や大砲の購入と部隊の整備に使われる。増額予算でどんな武器を購入するのか、その種類をいちいち挙げても意味がないので省くが、いずれもほぼ必要のない武器だ。
 なぜ、現代の最大の脅威は南西諸島にあるというのに、陸軍を強化しなければならないのだろうか。中国との直接の対峙があるとしたら、それは海上自衛隊の艦船や航空自衛隊の航空機で行われる。島も陸地だという見方もできるが、南西諸島の島々の土地は狭く戦車や大砲の出番はない。
 それとも、自衛隊は、戦前のように大陸で戦うことを想定しているのだろうか?


(つづく)

この続きは11月1日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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