連載1110 負けがわかっていても突き進む
大阪万博は「インパール作戦」「本土決戦」なのか? (上)
(この記事の初出は2023年10月10日)
どうやら、大阪万博は予定通りやるようである。今日までの状況を見れば、延期・中止がもっとも妥当な選択なのに、関係者の誰ひとりとしてこれを言い出さない。
岸田文雄首相にいたっては、泣きついてきた大阪府の吉村洋文知事に対して「成功に向けて政府の先頭に立って取り組む」「オールジャパンで一丸となる」と決意表明をする始末である。
すでに、あの大戦時の「インパール作戦」「本土決戦」と同じだという声が高まっている。
もし、そうなれば、日本の後進国転落、経済衰退は決定的となり、そのツケはすべて国民に回されるだろう。
招致した人間たちの「超楽観」に驚く
そもそもこの時代に万博をやろうというのが、とんだ時代錯誤であり、まったくの無意味だ。私は万博招致が始まった時から、そう批判し、最近では反対派の言論人としてABEMAテレビのニュース番組に2回出て、万博開催を批判した。
この2回の出演時のゲストは、1回目が松井一郎元大阪市長、2回目が万博誘致を積極的に推進した竹本直一元IT担当大臣(万博議員連盟事務局長)だったが、驚いたのが、このお二人とも本当に楽観的だったことだ。
松井氏は、大阪が万博に出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」において、日本がリードする再生治療の展示がいかに意義あるかを語った。iPS細胞でつくった心筋シートを用いた「生きる心臓モデル」が展示され、それが目玉になると述べたのである。
また、竹本氏は、目玉がないこと、参加国からの申請が遅れていることなど意に介せず、「日本はできますよ。日本ですよ。これからムードが高まっていけば、いろいろな知恵が出る。実際、過去の万博でもそうでしたからね」と、これはもう超楽観的と言うほかなかった。
「日本への信頼」を損なうのはどちらか?
いまさら、大阪万博がいかにピンチかを書いても仕方ないが、現実はまったく楽観などできない状況にある。
それなのに岸田首相は、それを承知のうえか、あるいはただの楽観人間なのか、なんと「成功に向けて(私が)政府の先頭に立って取り組む」「オールジャパンで一丸となって取り組む」と、8月31日に宣言してしまった。
これは、大阪の吉村知事に泣きつかれたからだが、万博そのものの主催者は、都市ではなく国だからだ。大阪万博の正式名は「大阪・関西万国博覧会」であり、日本国政府が開催国として、設立された「2025年日本国際博覧会協会」の開催履行を保証するというかたちになっている。
とはいえ、パリに本部を置く「博覧会国際事務局」(BIE:ureau International des Expositionsに掛け合って、加盟国の賛同を得たうえで違約金を払えば、延期なり中止なりは可能だ。
しかし、岸田首相は、メンツ、体裁のほうを取った。オールジャパン体制で臨むと宣言し、「国際社会からの日本への信頼がかかっている」と言ってのけたからだ。
出来損ないの急造万博を無理やり開催するほうが、どれほど日本への信頼を損なうか、この人にはわからないようだ。また、現時点で中止するなり延期するなりしたほうが、経済的損出も少なく済む。そういうアタマも、この人にはないようだ。
(つづく)
この続きは11月15日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。