連載1115 負けがわかっていても突き進む
大阪万博は「インパール作戦」「本土決戦」なのか? (完)
(この記事の初出は2023年10月10日)
道頓堀に飛び込んだ若者もいた招致決定の夜
いずれにせよ、すでに大阪万博は失敗している。パビリオンの建設遅れと不人気ぶりがそれを端的に物語っている。
ITの発展で超情報化社会となったいま、建物を立て展示物を人に見せるなどいうアナログなことをやる必要などどこにもない。人が来なければ、投入資金は回収できず、経済効果もない。国威発揚ではなく、国威減退を裏付けることになる。
開催が決定した5年前、2018年11月23日夜、道頓堀のビルの壁の大型ビジョンには、パリで開催されているBIE総会のライブ映像が映し出された。投票結果が発表され、大阪に決まると、くす玉が割られ、「オオサカ! オオサカ!」とコールがわき起こった、道頓堀に飛び込んだ若者もいた。
しかし、大阪のライバルは、 エカテリンブルク(ロシア)、バクー(アゼルバイジャン)だけだった。先進国の多くは、もはや万博が「オワコン」であると自覚していたからだ。
しかし、維新の会の方々、そして自民党の方々、さらに財界の方々まで、それを自覚できなかった。日本が衰退し、先進国から転落していることを信じようとしなかった。
彼らは、大阪で万博をやれば低迷する日本経済が復活すると信じ込み、万博とIR誘致で「夢洲」(ゆめしま)が国際観光の拠点となって、大阪の国際的な地名度が上がると訴えた。
万博失敗ならIRも撤退でツケは府市民に
こんな時代錯誤の「夢物語」に踊らされてきた大阪府民・市民は、今後、万博による莫大なツケを払わされる。万博ばかりではない、万博が失敗すればIRも撤退するに決まっているから、そのツケも払わなければない。「夢洲」は「悪夢の島」となるだろう。
9月28日、大阪府は、IRの運営事業者となる米MGMとオリックス連合と、開業の具体的な計画を定めた実施協定を締結した。しかし、この実施協定をよく読むと、事業者は儲からないとなれば簡単に契約を破棄でき、違約金もない。となれば、時期を見てMGMは撤退を発表するだろう。
いまどき、年間売り上げ5200億円(うちカジノ分4200億円)のIRなどできるわけがない。4200億円というのは、世界一の売り上げを誇るマカオのベネチアンに迫るもので、中国からの「ハイローラー」が来なければ達成できない。
ところが、大阪カジノはハイローラーを呼び込む「ジャンケットの営業を禁止している。
実施協定を締結後に、吉村知事はこう言った。
「大阪のベイエリアで、世界最高水準のIRを実現したい。その一歩に向けて今日は極めて重要な日だ」
いったいいつまで、夢物語を言い続けるのか? いい加減にしないと、大阪、いやこの国から逃げる人間が続出するだろう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。