連載1116 メディアはなぜ「朗報」と言わないのか? 2030・34札幌冬季五輪招致“大失敗”の裏事情 (上)

連載1116 メディアはなぜ「朗報」と言わないのか?
2030・34札幌冬季五輪招致“大失敗”の裏事情 (上)

(この記事の初出は2023年10月17日)

 2025年大阪万博が、“世紀の大失敗”に終わる可能性が高まるなか、10月11日に、「2030年札幌冬季五輪招致断念」のニュースが伝えられた。そしてすぐに「2034年を模索」と変更が加えられたが、結局は断念に追い込まれた。これで、札幌の冬季五輪開催は完全に消滅した。
 札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は、とんだ醜態をさらしたことになるが、この“大失敗”を追及するメディアはなく、五輪開催消滅が市民、国民にとって「朗報」と言わないのだから、どうかしていないだろうか。
 なぜ、こうなったのか? 冬季五輪開催が迷走する裏事情をレポートしたい。

開催の消滅に「残念です」だけでいいのか?

 あまりの迷走、醜態ぶりに目を覆いたくなったが、札幌冬季五輪がなくなったことは、本当に「朗報」である。札幌市民にとっても、日本国民にとっても、こんな喜ばしいニュースはない。
 それなのに、メディアの報道を見ていると、これを「朗報」として伝えたところはない。テレビのニュースショーのコメンテーターたちも、誰1人「よかったですね」とは言わず、ただ「残念」としか言わなかった。
 大阪万博にしてもそうだが、メディアの旧来の「お祭り報道」「ご祝儀報道」、そして「忖度」が、いかに日本を間違った方向に導いてきたか、そして、市民、国民の不利益を生んできたか、もう目が覚めなければいけないと思う。
 それにしても、札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)は、ひどすぎる。これまで、市民、国民の意向を無視して招致活動を行い、それが失敗すると、「申し訳ない」の一言もない。

開催を巡り札幌とJOCが迷走した3日間

 札幌市とJOCの迷走ぶりは、以下の通りである。
[10月11日]札幌市の秋元克広市長と日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長が、都内で合同会見。招致を目指していた2030年冬季五輪を断念し、34年大会以降を模索すると表明。東京五輪を巡る不祥事で、市民の支持が伸び悩んでいることを大きな理由としてあげた。
[10月13日]国際オリンピック委員会(IOC)は、インドのムンバイで理事会を開き、冬季五輪の開催地選定で2030年大会と2034年大会を同時決定する方針を固めたと、報道される。
11月末からの理事会で候補地を絞り込み、決定は来夏の総会で決定するという。
[10月14日] JOCの山下泰裕会長は、IOCの開催地同時決定の方針を受け、2034年大会招致について、「ソルトレイクシティが有力で、かなり厳しいとの認識は変わらない」と述べた。
[10月15日] IOCがムンバイで開いた総会で、2030年と34年の冬季五輪開催地を同時決定することを正式決定。これを受け、各メディアは「札幌の34年大会の開催も絶望的になった」と報道。
 以上の3日間を振り返ると、11日の秋元市長とJOC山下会長の「2030年冬季五輪を断念し34年大会以降を模索する」とした会見をなんだったのかということになる。

(つづく)

この続きは11月27日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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