連載1121 政府支援では問題は解決しない! 「ホタテを食べよう」キャンペーンのバカバカしさ (下)

連載1121 政府支援では問題は解決しない!
「ホタテを食べよう」キャンペーンのバカバカしさ (下)

(この記事の初出は2023年10月24日)

利益確保のために在庫を積み上げるだけ

 実際のところ、これまで行われてきた「ホタテを食べよう」キャンペーンは成功していない。売り上げもわずかしか上がっていない。それは、なんといってもキャンペーンなのに価格が下がらないからだ。
 普通なら、在庫を抱えるのはマイナスだから、業者は価格を下げる。そうして、少しでも売り上げを伸ばそうとする。しかし、ホタテの場合、在庫は水産加工業者の倉庫に積み上がったままなのである。
 UHB(北海道文化放送)は、水産加工業者に取材にして、その理由を聞き出している。「毎年6月~10月末にかけて、オホーツク産のホタテを加工して冷凍貝柱を製造している。例年だと加工と並行して商談も進むが、7月から商談が一切ストップしていて、在庫だけがどんどんたまっている状態」と、業者は答えている。
 つまり、利益を失いたくないので、在庫のままにしている。そうすれば値崩れはおこらない。ホタテは冷凍保存していれば、長持ちするというのだ。
 なぜ、こんな状況なのに、補助金を出し、販促のためのキャンペーンをするのだろうか?

最北の村「猿払村」に立ち並ぶ“ホタテ御殿”

 ホタテ業者への補償に対しての反対の声は、じつはもっと深刻な問題を孕んでいる。それは、ホタテ業者がこれまで中国輸出で「ボロ儲け」してきたという妬みだ。
 自治体の裕福度ランキンキング(自治体別の1人当たり所得ランキング)というのがある。それによると、ここ10年ほど、北海道の稚内市に隣接する「日本最北の村」猿払村がトップ10入りしている。1人当たりの所得が約800万円で、全国の自治体の平均をはるかに上回っているからだ。
 人口約2700人という最北の村が、なぜそこまで裕福なのだろうか? それは、水揚げ量が市町村の中で全国一というホタテ漁のおかげだ。
 村には“ホタテ御殿”が立ち並び、ベンツなどの高級車が走り回る。村役場の人間に聞くと、「年収1000万円の人はザラにいます。3000万円を超える人も珍しくないです」との返答。
 昔、北海道には“ニシン御殿”があったが、いまは“ホタテ御殿”と言うわけだ。

中国経由の流通チェーンに乗っただけのこと

 猿払村をここまで豊かにしたのはチャイナマネーである。ここ十数年で、中国が日本産のホタテの輸入を拡大させたからだ。北海道で獲れたホタテは、殻から貝柱だけを取り出して冷凍されるか、殻付きのままで冷凍されて中国に送られ、そこで加工されて、世界各地に輸出される。その最大の消費地はアメリカである。
 このホタテの流通チェーンが確立されたから、北海道産ホタテは、“ドル箱”となったのである。
 この辺のことが誤解されているので、「ホタテを食べよう」キャンペーンは、ピント外れとしか言いようがない。
もっと言うと、調べれば簡単に分かることだが、ホタテの中国国内消費量は年間約160万〜200万トンであり、このうち、日本産ホタテは約4%にしかすぎないのだ。
 このようなことを知らないで、中国の禁輸措置に対抗する「ホタテを食べよう」キャンペーンに対して、素人玄人が入り混じっていろいろなことが言われているが、そのほとんど聞くに耐えない。

(つづく)

この続きは1月4日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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