連載1123 時代錯誤、現実無視 岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (上)

連載1123 時代錯誤、現実無視
岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (上)

(この記事の初出は2023年11月7日)

 コロナ禍が明けたら、日本も世界と足並みを揃えて経済復興していくのではないかと、私は密かに期待していた。しかし、その期待はいまや完全に裏切られた。岸田政権の経済対策は、 時代錯誤、現実無視のオンパレードである。
 GDPでドイツに抜かれて4位に転落したというのに、この国にはそれを深刻に受けとめる気配もない。
 もう絶望するほかない現状で、これでは「失われた30年」は「さらに失われる30年」になるのは間違いない。

岸田内閣の支持率ついに20%割れ!

 「所得税と住民税の定額減税 1人あたり年間4万円」という「減税」が目玉という経済対策が発表されて以来、岸田内閣の支持率は急落した。
 その極め付けは、11月5日に発表された「社会調査研究センター」(SSRC、本社:さいたま市)のスマートフォンを対象としたインターネット調査方式「dサーベイ」である。
 この調査による岸田内閣の支持率は、なんと、前回10月の調査から4ポイント減の19%と、ついに20%を割り込んでしまった。
 支持率急落の原因として挙げられているのが、経済対策の不甲斐なさだ。11月2日に決定された政府の経済対策を「評価する」はたったの9%。「評価しない」は、70%にも達した。
 減税が評価されないというのは、それが一時しのぎの選挙対策だと見透かされてしまったからである。ただし、ここまで支持率が低下したからといって、倒閣運動など起こらない。国民によるデモもない。いまの日本人には、なんとかこの局面を打開ししてよりよい未来をつくろうという気概がない。

「資産所得倍増プラン」で貯金を吐き出させる

 「経済、経済、経済」と3連呼した「増税メガネ」岸田首相だが、あきれるのは、その頭のなかが時代錯誤で、現実と乖離していることだ。
 なにしろいまだに「デフレ脱却」などと言うのだから、空いた口が塞がらない。
 今回の経済対策のなかで、「減税」と並んで最悪と思えるのが、「資産所得倍増プラン」の現実無視ぶりだ。内閣府のHPには「資産所得倍増元年」という文字が踊っているが、これはいったい誰に向けたものなのだろうか?
 日本人の個人金融資産はいまや2000兆円以上に達し、その半分以上が預貯金となっている。これを投資に振り向けて経済を活性化しようというのだが、ではいったい誰がそんな資産を持っているのか?
 金融庁によれば、年齢別の金融資産は、70代以上で「金融資産非保有」が約3割いる反面、金融資産「1000万円以上」は4割以上もいる。つまり、金融資産は高齢者に偏っているのだ。ただし、高齢者は「老後に2000万円必要」という脅迫から預貯金を切り崩さないでいるというのが現状だ。

NISA非課税の永続化のどこが経済対策

 それでは、若年世代はどうだろうか?
 20代を見ると、「金融資産非保有」の割合はなんと3割を超え、「1000万円」以上は、ほとんどゼロである。
 資産というのは、収入から支出を引いてできるものだから、いまの低給料で若い世代が、投資のための原資をつくるのはほぼ無理である。となると、いくら国策といえ、誰が投資をするのだろうか?
 「資産所得倍増プラン」の目玉は、NISAの非課税期間の無期限化である。NISA投資に関しては永遠に課税しないというのだ。しかし、非課税というのは利益に対する課税免除に過ぎず、当然だが利益だ出ずに損出した場合の補填はない。
 経済政策というなら、まずは利益を生みそうな投資先をつくるのが先決である。そして「資産倍増」などより、「給料倍増」のほうが先であろう。
 岸田首相というのは、現実無視のまったくの経済音痴というほかない。

(つづく)

この続きは12月6日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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