連載1125 時代錯誤、現実無視
岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (下)
(この記事の初出は2023年11月7日)
再生可能エネルギー転換とCO2排出削減
それにしてもどうするのかと思うのが、日本経済の地球温暖化対策の立ち遅れだ。これからは、温暖化対策に真剣に取り組まない企業、国は生き残れない。
なにしろ、人類の滅亡がかっているのだから、温暖化対策で利益が出る構造に経済システムは変わっていく。
その最大の焦点が、「温室効果ガス」(GHG:Greenhouse Gas)、とくにCO2を排出しない「再生可能エネルギー」(Renewable Energy)への転換だ。ところが日本は、いまだに石炭火力を温存しているうえ、LNGも大量に輸入して発電している。
再エネ転換への鍵は、原子力のほかには太陽光、風力発電の比率を増やすか、CO2を大気中から分離・回収する技術「DAC」(Direct Air Capture:直接空気回収)、発電所や製鉄所などから排出されるCO2を回収し地下に戻す技術「CCS」(Carbon dioxide Capture and Storage地下貯留)の開発・実用化しかない。
しかし、CCSは政府支援の下で実証実験が始まった段階で、DACも同じだ。もう一つ、水素発電があるが、これもまだ実証実験段階で、2020年代後半には実用化される見込みというが確証はない。
つまり、現在の日本の技術開発では「2050カーボンニュートラル」達成は難しく、化石燃料が禁止された段階でエネルギー貧国になり、経済はさらに衰退する可能性が高い。
世界が進む方向はスマートシティ化
日本の立ち遅れの深刻さを痛感させられるのが、世界各国で続々と誕生しつつあるスマートシティである。日本でも仙台市、札幌市、さいたま市などで、スマートシティ化に向けた取り組みが行われており、そのなかでも、有名なのがトヨタが静岡県裾野市に建設中の「ウーブン・シティ」(Woven City)である。
しかし、日本のスマートシティは、いずれも海外と比べると、スケールも中身も劣っていてお話にならない。
内閣府のHPには、スマートシティが次のように解説されている。
《スマートシティは、ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場と定義されています。》
これでは、ただの解説に過ぎず、スマートシティ建設への意気込みが少しも感じられない。単純に、街を走るのが無人運転EVで、電力はすべて再エネでまかなわれ、AIが住民サービスを管理する。そのような未来都市とすれば、日本ではまだ実験段階でしかない。
UAEは世界でもっとも進んだスマートシティ
日本のスマートシティと比べてはるかにスケールが大きく、先進的なのが、UAEのアブダビが2006年から建設してきた「マスダール・シティ」だろう。すでにここではCO2を排出しないゼロエミション交通網が整い、電力供給はすべて再エネでまかなわれている。国際再生可能エネルギー機関 (IRENA) の本部が置かれ、MITの分校も設置された。
豊富な石油資源を持つUAEの未来戦略は明確で、オイルマネーをクリーンエネルギーに転換して、温暖化経済の最先端を行こうというものだ。そのため、世界一の規模を誇るスワイハン太陽光発電所をつくり、CO2を排出しない「グリーン水素」の生産にも着手している。
もし日本が水素発電に移行せねばならなくなったら、グリーン水素はUAEから輸入することになるだろう。
そんなUAEのドバイで、2021年 10月から2022年3月の半年間、万博が開催された。この万博では、再エネの活用、水資源の削減、プラごみの分別リサイクルなど、徹底したSDGsへの取り組みが行われた。
ドバイ万博で特筆すべきことは開催後に主要建物を取り壊さず、サステナブルなスマートシティ「Expo City Dubai」とし継続的な街の建設が行われていることだ。
はたして2025年大阪の夢洲で、ドバイに匹敵する万博ができるだろうか?
(つづく)
この続きは12月7日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。