連載1126 時代錯誤、現実無視 岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (完)

連載1126 時代錯誤、現実無視
岸田政権が招く「さらに失われる30年」の無残 (完)

(この記事の初出は2023年11月7日)

世界の度肝を抜くサウジの未来都市建設

 スマートシティ化でアジアで最先端を行くのが、シンガポールである。現在、政府サービスをほぼ100%デジタルにする計画が進行している。また、西部地区に約4万世帯、10万人以上が暮らせる大型スマートシティプロジェクト「Tengah Town」(テンガータウン)の建設が進められている。じつは、この建設にパナソニック、ダイキンなどの日本企業が参画している。
 中国の雄安新区も、代表的なスマートシティである。2017年、習近平国家主席肝いりの「千年大計」と呼ばれて始まった巨大プロジェクトは、AI、IoT、ブロックチェーン、自動運転EV、再エネなどを駆使し、広大な敷地に2035年までに人口2000万人の新首都をつくるというものだ。
 しかし、最近取材に行った人間に聞くと、不動産バブルの崩壊で建設は一時的に中断しており、住民もまだ移り住んでいないという。
 サウジアラビアが進めている「ビジョン2030」も、巨大スケールの未来都市建設である。未来がない石油依存経済から脱却するために、石油収入のほぼすべてをつぎ込んで、ベルギー1国に匹敵する新都市「NEOM」を建設中である。そこに、世界のハイテク、先端企業を集め、優秀な人材も呼び込もうというのだ。
 そのため、サウジはすでに観光ビザを解禁し、移住ビザも緩和。なんと、プロサッカーリーグにスーパースターを集めた。世界が驚いた、クリスティアーノ・ロナウドの2年2億ドル(約300億円)での移籍に続き、ネイマール、ベンゼマ、メッシなどが超高額年俸で続々と移籍した。
 スーパースターを集めれば、世界から人とカネがやってくるというわけである。

第2のシリコンバレー、オースティン

 スマートシティの本家本元といえば、もちろん、シリコンバレーである。ここが、ここ半世紀のほぼすべてのイノベーションの発祥地であるのは間違いない。
 しかし、最近のアメリカでは、シリコンバレーの分散化が進み、南部のいくつかの都市がスマートシティ化している。
 テキサス州のオースティンとダラス、フロリダ州のマイアミがその筆頭である。テキサス州とフロリダ州には所得税がないので、このことが一つ理由となって、ハイテク産業、スタートアップが集まるようになった。
 とくにオースティンの発展は目覚ましい。
 オースティンは、アメリカの数ある大都市圏のなかで、もっとも成長していて、1日に184人のペースで人口が増えている。そのうちサンフランシスコからの移住者がもっとも多いというから、まさに第2のシリコンバレーだ。
 オースティンには、2つの先端企業が新型コロナの感染拡大以降に拠点を移した。EVで躍進を続けるテスラとITインフラ企業オラクルだ。

大阪万博とリニア新幹線が日本凋落の象徴

 このような世界の状況を踏まえて、外から日本を見ると、その凋落ぶりは情けないとしか言いようがない。
 日本もようやく目覚め、たとえば半導体産業の復権を目指し、熊本菊陽町に台湾TSMC、北海道千歳市にラピダス、仙台市にSBIと台湾PSMCが工場をつくり始めた。いずれも、政府が補助金を出している。
 しかし、TSMCは汎用の20ナノ、SBIと台湾PSMCは汎用の40ナノと最先端の半導体ではない。ラピダスは3ナノを目指すと言っているが、これはいつになるかわからない。
 以上、もはや日本の状況は救い難く、このようななかで、2025年大阪万博をやっつけ工事、プレハブ仕様パビリオンでやろうというのだから、アタマがおかしくなったとしか思えない。間違いなく、税金をドブに捨てたうえに、日本の後進国ぶりを世界に発信する万博になるだろう。
 そして遅れに遅れている、東京と名古屋を最速で40分で結ぶというリニア新幹線。おそらく2030年前にはできると思うが、そのとき、名古屋経済圏の柱トヨタはどうなっているだろうか?
 東京・名古屋を“空気”を乗せて疾走するとしたら、もはや日本凋落は歯止めがなくなる。

(了)

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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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