連載1127 追い込まれた海洋国家ニッポン 負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (上)

連載1127 追い込まれた海洋国家ニッポン
負けられない「日中韓造船ウォーズ」 (上)

(この記事の初出は2023年11月14日)

「ゼロエミッション船」が起死回生のチャンス

 かつて世界の海を制した日本の海運・造船業だが、いまや中国、韓国勢に大きく引き離されてしまっている。日本は四方を海に囲まれた島国、「海洋国家」であるから、この状況が続けば、経済はもとより安全保障においても大きな影響を受ける。
 そこでまず、現在の世界の海運・造船がどうなっているのかをざっと述べて、その後に、熾烈な競争に入った「日中韓造船ウォーズ」について概観してみたい。
 私の知人に海運・造船業界の人間が何人かいるが、その1人が言うのは、次のようなことだ。
「このままでは日本の造船業、海運業は本当にダメになってしまいます。いま進んでいる次世代燃料船、いわゆるゼロエミション船の開発が起死回生の絶好のチャンスです。もし、これに遅れをとったら、もう再起は無理でしょうね」
 ゼロエミション船というのは、温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)を排出しない船である。地球温暖化対策、すなわちカーボンニュートラルはいまやあらゆる産業におよび、国連では「国際海事機関」(International Maritime Organization::IMO)が、外航船の船舶から出るGHGを2050年までに実質ゼロにする国際目標を採択している。そのため、各国の造船は、いま必死になってゼロエミション船の開発・製造に取り組んでいる。

日本の海運業は保有船舶数で世界第3位

 すでに日本の海運・造船業が、中国、韓国に追い抜かれたことはご存知だと思う。ひと口に海運・造船業と言うが、造船は大きく見ると海運業界の一部を担う存在で、トータルで海上物流産業と捉えるべきだろう。この海上物流は、日本における輸出入の、なんと99.5%を担っている。まさに、船がなければ日本は生きていけないのだ。
 また、私も認識不足だったが、国内の物流でも長距離の場合は海運が主流となっている。輸送距離500km以上(東京・大阪間に相当)では、海運の割合が半分以上に達している。
 日本海事広報協会によると、2021年1月時点で日本の船会社が実質保有する船腹量(日本籍船および海外子会社が保有する外国籍船の合計)は、ギリシャと中国に次ぐ世界第3位である。
 また、日本の海運業の市場規模は、売上高約3.7兆円であり、その内訳(トップ10)は、以下のようになっている。

【海運業界 売上ランキング(2022-2023年)】
1位:日本郵船(2兆6160億円)
2位:商船三井(1兆6119億円)
3位:川崎汽船(9426億円)
4位:NSユナイテッド海運(2508億円)
5位:飯野海運(1413億円)
6位:ENEOSオーシャン(675億円)
7位:明治海運(580億円)
8位:新日本海フェリー(553億円)
9位:栗林商船(493億円)
10位:乾汽船(442億円)

(つづく)

 

この続きは12月12日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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