津山恵子のニューヨーク・リポートVol.22 人間に感情移入させたゴジラ作品 「-1.0」が日本映画で北米トップに

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.22

人間に感情移入させたゴジラ作品
「-1.0」が日本映画で北米トップに

 

「ゴジラ-1.0」(山崎貴監督)が12月1日の北米公開以来、快走している。2週目にして興行収入で3位に。チケット売り上げは2530万ドルを記録し、日本の実写映画として北米で最高を達成した。私は、ジャパン・ソサエティーでの先行上映に行ったが、東宝ゴジラファンで熱気に包まれ、エンディングには歓声と拍手が起きた。

ゴジラシリーズは、1954年の第1作より70周年を迎える。英紙ガーディアンは「-1.0」は「シリーズで最高作の一つ」とまで言う。ロッテン・トマトのオーディエンス・スコアも98%と異例の高さだ。

なぜ、今回のゴジラはそんなに人気なのだろう。

それは、ゴジラに翻弄される人間の生死、人物の葛藤など人物描写の威力だったといえる。評論やロッテン・トマトの投稿を見ても「登場人物に圧倒された」という意見が目立つ。

「戦後、日本。無(ゼロ)から負(マイナス)へ」がキャッチコピー。

時は第2次世界大戦直後。特攻隊員だった敷島浩一 (神木隆之介)は東京に生還するも、焼け野原で両親はこの世にはいない。もがくように生きる中、赤の他人の子を育てる大石典子(浜辺美波)と同居し、小さな家庭を築く。そこに、ゴジラが上陸し、復興の波にのる東京から人々の命や街を奪っていく。

日本人は終戦後の史実をより身近に感じ、多少は批判的な目で見るかもしれない。しかし、アメリカ人は純粋なヒューマン・ストーリーとして共感しているのだと思う。困難から立ちあがろうとするが、また打ちのめされる。しかし、意志の力と知恵と信念で、巨獣ゴジラを倒していく。「プライベート・ライアン」などのハリウッド戦争映画とも重なるところがある。あきらめず立ち上がる。それがゴジラに対峙する自分たち、生身の人間として、強い共感を呼んだ。主役は「人間ら」だった。

ジャパン・ソサエティーの先行上映に駆けつけたファンたち Photo Keiko Tsuyama

映画評論家クリス・スタックマン氏は、こう語った。

「ゴジラが光線を発する姿がたくさん観られなくても、人間パートに満足できた。皆を大事に思えて、ただ無事でいてほしいと心の底から思える。そんなふうにキャラクターに感情を抱いたのは初めてだった」

 「ALWAYS三丁目の夕日」など、観客が愛しいと思える人物の描写に定評がある山崎監督は、その手法をゴジラ映画と合体させた。

 同時に、「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)が、北米オープニング興収1280万ドルで1位を飾り、日本のアニメ作品としては史上初の快挙となった。12月9日の週末は、トップが「君たちは〜」で、3位が「ゴジラ」だった。人間ドラマがいかに世界に響くかを示している。

 

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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