第8回 教えて、榊原先生!
日米生活で気になる経済を専門家に質問
「2024年米国経済の見通し」
Q. 米国経済は来年どうなるのでしょうか?
2023年も残りわずかとなり、来年の米国経済の行方を覗いてみます。22年にインフレ率が高騰し、FRBが急速な金融引き締めに転じた後、23年は利上げ局面がいつまで続くのかに注目が集まりました。24年はリセッションになるか否かが大きな焦点ではないでしょうか。
FRBは7月までに政策金利を昨年末からさらに計1%ポイント追加で引き上げ、5.5%としました。これは2006年のピークを越え、2001年以来の高水準になります。FRBの積極的な金融引き締めを踏まえ、一部のエコノミストが年内に利下げ開始とリセッション入りを予想していたほどです。
しかし、実際には景気が堅調でインフレ圧力はそれほど沈静化せず、インフレ率は食料品とエネルギーを除いた個人消費支出デフレーター(コアPCE)ベースで、まだ政策目標の2%程度を大きく上回ったまま推移しています。5%超というピークから今年10月の指標で3.5%まで下がってはきており、7月の利上げ以降FRBは様子を見ています。それでも、もう利上げは必要ないと宣言できるかは微妙な状況だと言えましょう(執筆時点では12月12-13日に年内最後の政策決定会合を控えている)。
FRBによる9月20日時点の見通し(上記の12月会合で更新される)でも、24年のコアPCEインフレの全体予想レンジが2.3~3.6%と、上振れリスクの方がより懸念されています。実質GDP予想の全体レンジは0.4~2.5%と幅広になっているのも興味深いところ。0.4%とリセッション含みの低成長までしっかりとブレーキがかかる予想の下でもコアPCE予想の下限が2.3%にとどまっているのは、根強いインフレ圧力が示唆されていますし、景気にブレーキがかからずインフレ圧力は後退しないというリスクシナリオも意識されているわけです。
ただ、経済活動には鈍化傾向の兆しも出てきており、少なくとも景気はスローダウンする公算が大きいと思われます。10月初めには8割以上の米国企業のCEOが向こう1年以内のリセッションを予想しているというサーベイ結果の報道もありました。
これまでの金融引き締めが十分なブレーキ効果を発揮してインフレ圧力が目標に向けて早くに鎮静化するなら、利上げ局面は終了し、長期金利が下がって景気を下支え、リセッションを回避できる可能性が高くなります。一方、CEOたちの不安を他所に景気が当面は底固く推移し、インフレ圧力が残るのであれば、追加利上げが必要となり、逆に最終的にはリセッションの確率を引き上げることになるでしょう。
今のところは予想されていた以上に景気が底堅さを見せています。8月25日掲載「この20年のアメリカ経済の大きな出来事」で触れたインダストリー4.0の経済推進力を侮ってはいけないのかもしれません。それでも来年のテーマは、順当な景気サイクルの流れであれば、金融引き締めの結果、リセッション入りの可能性も含めて経済活動がどこまで鈍化するかを見ていく状況になるのではと思います。
皆さま、良いお年を迎えられますように!
先生/榊原可人(さかきばら・よしと)
SInvestment Excellence Japan LLC のマネージング・パートナー。主にファンド商品の投資仲介業務に従事。近畿大学非常勤講師(「国際経済」と「ビジネスモデル」を講義)。以前は、米系大手投資銀行でエコノミストを務めた後、JPモルガン・アセット・マネジメントで日本株やマルチアセット運用業務などに携わる。