アメリカの世界覇権は終焉するのか? 中国が次の覇権国なることはありえるのか? (上)

アメリカの世界覇権は終焉するのか?
中国が次の覇権国なることはありえるのか? (上)

(この記事の初出は2023年12月12日)

ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争によって、世界はますます混沌としている。かつての冷戦時代、そして冷戦後のアメリカ1極時代のような「あるべき秩序」の中で世界は動かなくなってしまった。
 そういう世界情勢のなかで、もっとも取り残されているのが、日本ではないだろうか?
 最近は「地政学」がブームになり、それに基づいてさまざまなことが議論されている。そこで、今回は、地政学的な見地から、今後の世界を展望してみたい。

アメリカ上院が軍事支援法案を否決

 最近は、アメリカの「世界覇権」(world hegemony)はすでに失われ、世界は「多極化」(multipolar)としたという見方が強くなっている。たしかに、アメリカの力は衰え、世界中でアメリカ支配から離反する動きが顕著になっている。
 いま目の当たりのある2つの戦争にしても、アメリカは立ち往生している。
 12月6日、アメリカ連邦議会上院は、ウクライナへの軍事支援を含む大型支出法案を51対49で否決した。野党・共和党が強く反対したからだ。 
 今回の支出案の1060億ドル(約15兆9000億円、ドル円150円換算、以下同)には、ウクライナ支援のほかに、イスラエルと台湾への軍事支援が含まれていたが、共和党は「そんなことよりメキシコとの国境管理や移民対策を強化するための予算を増やせ。ウクライナにはこれ以上の支援はいらない」と主張したのである。
 しかし、この支援がなければウクライナはもとより、イスラエル、台湾情勢はどうなるかわからない。
 とくにガザ攻撃を再開したイスラエルが困る。そのため、バイデン政権は議会を通さない緊急措置として、イスラエル支援だけは実行することを決めた。

イスラエル以上にウクライナは愕然

 12月9日、アメリカ国務省は、イスラエルに対し、戦車の砲弾などおよそ1億6500万ドル(165億円)あまりに相当する武器の売却を承認したと発表した。
 これは異例のことである。
 民主国家の規範であるべきアメリカが、議会を通さずに他国支援を決める。そんなことがあっていいわけがない。
 しかし、バイデン政権は「アメリカの安全保障上、イスラエルに対しただちに武器を売却すべき緊急性がある」と、この決定を下したのである。
 このことが物語るのは、アメリカの内部からアメリカの世界覇権が崩れるかもしれないということだろう。世界覇権などどうでもいいと考える政治家が増えたということである。
 トランプ前大統領が唱えた「アメリカ・ファースト」は、まさにそうした考え方の典型であり、保守もリベラルも、最近ではアメリカさえよければいいという考えに固まり始めている。
 今回の法案の件に関しても、民主党の重鎮、バニー・サンダースは「極右ネタニヤフ政権に現在の軍事的アプローチを続けさせるため、100億ドルを支出すべきではない」と主張した。彼はもともとネタニヤフが嫌いだったこともあるが、イスラエルはアメリカの中東における覇権の要である。したがって、こんな発言をする政治家はこれまでのアメリカにはほとんどいなかった。
 もちろんであるが、この支援案の否決に愕然としたのは、イスラエル以上にクライナである。ただちに、ウクライナ政府は、「ロシア軍から占領された領土を奪還するためには、アメリカの支援が不可欠」というメッセージを発信した。そして、慌てに慌てたゼレンスキー大統領は、12日に、バイデン大統領からの招待というかたちで、ワシントンに乗り込むことになった。

(つづく)

 

この続きは1月11日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

タグ :