アメリカの世界覇権は終焉するのか?
中国が次の覇権国なることはありえるのか? (完)
(この記事の初出は2023年12月12日)
習近平の潔癖・毛沢東回帰路線は経済を殺す
習近平政権になって、中国経済は停滞を始めた。新型コロナのパンデミックが、それに拍車をかけた。これまでの習近平の政治を見ると、彼が潔癖な人間で規律を大事にする人間であることがわかる。
汚職を徹底的に追及し、政敵はすべて追放した。コロナ禍では徹底したロックダウンを敷いた。これでは、自由主義経済は死んでしまう。
習近平は毛沢東を尊敬し、政策も毛沢東回帰路線である。それは経済の国家統制を強めることで、その先に成長はないと、私には思える。繰り返すが、中国が成長したのは、人民の力と努力であり、政治の力ではない。
したがって、中国がここにきて直面しているさまざまな問題——少子高齢化、人口減、就職難、不動産バブルの崩壊、不良債権、地方政府の負債、気候変動の激化などは、政府の力では解決できないだろう。
そしてなによりも、西側から分断されてしまっては、発展は無理だ。中国の成功のもう一つの大きな理由は、冷戦後に世界経済、とくに西側経済にコミットできたことである。したがって、西側経済の扉が閉ざされれば発展は止まってしまう。グローバルサウスとBRICSだけでは、西側経済の穴埋めはできないだろう。
問題はアメリカの国内の深刻な分断
私の中国に対する見方は間違っているかもしれない。ただ問題は、日本もそうだが、いまや多くの国が中国との関係なしには、自国経済が回らなくなっていることだ。よって、中国に対するディカップリングは成功しない。中国はアメリカを抜くという見方は依然として根強い。
世界最高の投資家の1人とされるレイ・ダリオは、いずれ中国がアメリカを抜いて世界覇権国家となると、繰り返し述べている。
ただ、レイ・ダリオがもっとも注目しているのは、中国の成長ではなく、アメリカの凋落だ。いまやアメリカの政治的な分断は「内戦状態に近い」と、彼はメディアに警告している。
たしかにいまのアメリカは、「共和党州」(レッドステート)と「民主党州」(ブルーステート)では、まったく別の国だ。都市も同じだ。
かつては、共和党議員も民主党議員も、同じアメリカの議員として仲良くスポーツに興じたり、同好パーティをやったりしていたが、いまや、まったく口も聞かないという。議員がこれなら、支持者同士も同じという。
分断が怖いのは武器を手にした内戦になること
アメリカの分断は、民主党州、とくに「聖域都市」(サンクチュアリシティ:sanctuary city)に信じられないほどの荒廃をもたらしている。
たとえば、ニューヨークでは、不法移民のホームレスが街に溢れ、万引きが横行し、犯罪も多発。高学歴人間は、どんどんマンハッタンから出て行っている。そのため、アダムス市長は悲鳴を上げ、バイデン政権に連邦政府による支援を求め続けているが、一向に改善されない。
なにしろ、聖域都市では「不法滞在であっても基本的人権を侵してはならない」という人権第一政策が取られ、治安、秩序、市民生活が侵されているのだ。
すでにこの状況は、以前のメルマガで配信したので、もう詳しくは触れない。それより、この状況が進んだとき、本当に内戦になりかねないことだ。
アメリカでは、多くの市民が武装している。銃を持っている。殺傷能力の高いライフルまでが普通に店で販売されている。
また、「民兵」(ミリシア、militia)という考え方があり、憲法には、独立宣言に由来する市民の「抵抗権」(Right of Resistance)が明記されている。中央政府の横暴に対して国民には抵抗する権利があり、それは選挙やデモのような平和的な手段にとどまらず、武力を用いても構わないとされている。
アメリカは荒廃しても必ず復活する
はたして、国内の分断からアメリカは自滅し、世界覇権を失ってしまうのか? ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争はどうなるのか? 米中新冷戦はどうなっていくのか?
私は、1970年代に初めてアメリカに行き、そこで見たアメリカの荒廃ぶりを思い出す。
1970年代のアメリカは、泥沼化するベトナム戦争、石油ショック・インフレによる不況、ウォーターゲート事件、学生運動の衰退、麻薬の蔓延—-などに象徴されるように閉塞した時代だった。1975年にサイゴンが陥落して、ベトナム戦争がアメリカの完全敗北で終わると、アメリカは世界覇権を失うのではないかと思えた。
しかし、アメリカは復活した。アメリカはヤワな国ではないのだ。 1970年以後、アメリカ経済はスクラップ&ビルドを繰り返し、いまに至っている。思えば、『スター・ウオーズ』の第1作は1977年に公開された。あのシリーズは、未来の物語ではなく、アメリカの現代史を未来に置き換えたものだ。
現在、日本を取り巻く状況は、本当によくない。米中冷戦が激化すれば、日本はアメリカと中国とのバランスのなかで、本当に難しい状況に陥る。
しかし、日本の保守が理想とする「独立国家」としての「全方位外交」などあり得ない。
もし、中国がアメリカにとって代わって世界覇権を握るなら、その絶対条件として台湾併合が必要だ。それができなければ、中国が世界覇権国家になることはない。地政学から言えば、そう見るのが自然だろう。
(了)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。