共同通信
蒸気機関車(SL)の運行で知られ、昨年の台風被害で一部区間の運休が続く大井川鉄道(静岡県島田市)は乗客を呼び込もうと、星空観賞列車や県外の被災路線応援ツアーなどユニークな企画を打ち出している。軽妙な語り口で気さくな雰囲気の“名物広報”山本豊福(やまもと・とよふく)さん(58)は「鉄道は楽しい乗り物だと伝えたい」と意気込む。(共同通信=大貫紗英)
大井川鉄道は、県中部の島田市から北側の川根本町などに延びる。沿線人口が少なく、観光事業に力を入れてきた。1976年、SLの本格運行を開始。2014年、人気アニメを模した「きかんしゃトーマス号」の運転を始めた。
2022年9月の台風15号で土砂崩れなどの被害に遭い一時は全線運転を見合わせ、今も一部が不通に。新型コロナウイルス流行の影響もあり、4期連続で赤字が続く。
この状況から挽回するため、山本さんらはアイデアを練ってきた。2017年から、通常ダイヤでは走らない夜間に秘境駅まで列車を走らせ、星空観察ができるツアーを開催。2023年7~9月には車内やホームでビールが飲めるイベントを行った。
一推しは山本さんが考案した「応援鉄」だ。全国の被災した路線を訪問することで応援をしようと、被災経験のあるくま川鉄道(熊本県人吉市)やJR肥薩線など九州の路線と大井川鉄道を巡るツアーを2023年9月に実施。11月には第2弾として、SLを走らせる栃木県の真岡鉄道などを回った。いずれも山本さんが同行し、大好評だった。「今後も大井川鉄道に関連したキーワードを軸にツアーを組みたい」と話す。
山本さんは島田市生まれ。通った高校から大井川鉄道のSLの汽笛が聞こえた。東京都内の大学卒業後、1988年に入社。翌年、国内で珍しい「アプト式鉄道」建設の取材に対応したことが広報に関わるきっかけだ。
2005年ごろから実質的な広報担当となり、2022年からラジオ番組のリポーターとして月1回、静岡県内の交通事業者の話題を伝える。「これからローカル線はもっと厳しくなる。乗って応援してもらうのが一番。応援鉄を広めたい」