共同通信
しんどいと言える場所がほしい―。ひきこもりの子を持つ親たちのそんな思いから生まれた場所がある。大阪府高石市の南海電鉄高石駅から徒歩約10分。住宅街の古民家で週2回、家族や当事者が集う「虹サロン」が開かれている。
運営するのは家族会「大阪虹の会」のメンバーで、ひきこもりの子を持つ60~80代の親たちだ。2014年から当事者や家族がふらりとお茶を飲みに立ち寄れる場所を提供し、電話相談も受け付けている。
▽母として自問自答
メンバーの一人、日花睦子さん(68)。2004年、専門学校に通っていた次男がひきこもるようになった。理由も話さない子に戸惑い、罵声を浴びせたことも。支援を求め役所を頼ってもたらい回しにされ、親戚や友人からは「あなたが甘いんじゃない?」と責められた。
「子育てより仕事を優先してしまったせいではないか」。自問自答する日々が続いたが、サロンに出合い、2014年から通い出すと変化が生まれた。「ここでは弱音を吐きまくることができました。親はみな自分を責めるんだと分かったら、張りつめていたものがほどけていくのを感じました」
それから約10年。次男を取り巻く問題は今も続く。収入や健康のことなど悩みは尽きないが、メンバーで話し合いながら、心のもやもやを前向きに整理できるようになってきた。そうやって支え合う喜びを知ったからこそ、悩みを抱え訪れる人に「独りじゃないよ」と伝えたくて、今日もお茶を用意して待っている。
▽思い詰めていた
2023年11月下旬、高校入学後約10年ひきこもり、現在は介護の仕事をしている大阪府阪南市の男性(32)がやってきた。2016年に初めて訪れ、就職後も時々遊びに来る。「後は死ぬだけと思い詰めていた時にサロンと出合えた。飾らなくてよい雰囲気に癒やされた」。気軽に通える場所があることが救いになり、働くための一歩を踏み出せたという。
日花さんは笑顔で話す男性に目を細めつつ「当事者それぞれ目指す方向は違う。話を聞くことしかできないけど頼れる先でありたい」と語った。
▽ひきこもり
厚生労働省の定義では、就学や就労などをせず、半年以上、家庭にとどまり続ける状態。内閣府の2022年調査によると、15~64歳のひきこもり状態の人は推計146万人。80代の親と50代の子が孤立する「8050問題」や、親亡き後の当事者支援が課題。全国の家族会などを中心に、支援に特化したひきこもり基本法の制定を求める動きもある。