ウクライナ、ガサだけではない戦争の惨禍
2024年、世界は「無法地帯」になるのか? (上)
(この記事の初出は2023年12月26日)
日本のメディア世界にいると、世界がまったく見えなくなる。最近はウクライナ戦争もイスラエルーハマス戦争の報道量も減り、政治とカネと大谷翔平の話題ばかりになっている。と言っても、世界どのこの国のメディアも、自国と自国民の関心のあることしか報道しないので、日本のメディアを批判しても意味はない。
ただ、そうこうしているうちに、世界の混迷は深まるばかりだ。このまま行くと、世界は本当に「無法地帯」と化すだろう。いったい、なぜ、こんな状況になってしまったのだろうか?
ウクライナやガサだけが戦争ではない
ウクライナ戦争は長期化・泥沼化し、イスラエルーハマス戦争は停戦の気配すらなく継続している。どちらも先行きは見えず、結局、無駄な血が流され続けている。本当に、なんでこんなことになっているのか、つくづく、人間は馬鹿だと思うが、こればかりはどうしようもない。
ただ、思うところがある。
日本のメディアはほとんど取り上げないが、世界で戦争、紛争が起こっているのは、ウクライナやガサだけではないことだ。日本のメディアだけではない、欧米のメディアもほとんど取り上げず、ずっと続いている戦争、紛争がいくつもある。
たとえば、イエメン、シリア、コンゴ、スーダン、ミャンマーなどでは、今日もまた血が流されている。
人類史で繰り返された「復讐」「憎しみの連鎖」
日本のメディアは、イスラエルーハマス戦争で、パレスチナ側の死者が何万人に上ったなどと、その数を報道し、人道的な見地から戦争を批判している。そして、欧米のリベラルメディアの押し売りで、「国際法違反」「ジェノサイト」と、この戦争を批判する。
私は、こういう姿勢が大嫌いである。それに乗っかる評論家も嫌いである。
いまイスラエルがやっているのは報復戦争で、自国民を殺されたことへの「復讐」である。復讐は人類史で繰り返し起きてきたことで、これがなくなったことは1度たりともない。復讐は「憎しみの連鎖」を呼ぶ。
したがって、世界中で起こっている戦争、紛争は、対立する勢力を上回る武力と強大な力を持っている国が強制的にやめさせない限り、終わらない。誰が自分の妻や子供を殺した相手と握手するだろうか?
武力紛争、戦争をやめさせることができるのは、世界覇権国だけである。つまり、これまでアメリカだけだったが、近年、アメリカの世界覇権は、オバマ、トランプと、冷厳なリアリストでない大統領が続いたため衰えてしまった。
死者数が最悪なのはコンゴ。しかし無視!
ウクライナやガサでの死者がことさら報道されているが、ほかの継続中の紛争、戦争でも多くの死者が出ている。
イエメンでは、サウジアラビアが支援する政府軍とイランが支援する反政府勢力フーシ派による代理戦争が、すでに9年も続き、これまでわかっているだけでも約37万7000人が殺された。
同じく10年にわたるシリア内戦では、これまでに40万人以上の死者、690万人以上の国内避難民が発生し、周辺諸国と欧州に550万人以上の難民が流出した。
約600万人という最悪の数の死者を出して、30年以上も続いているコンゴ共和国の内戦は、収まる気配すらない。なにしろ100ほどの武装勢力があり、互いに殺し合いを繰り返しているからだ。ただし、紛争による殺戮は死者の1割にも満たず、残りは感染症や栄養失調など「間接的暴力」による死者だという。つまり、救えた命だ。
そんな状況のなか、欧米資本、中国資本は、レアメタル目当てに資源開発を続け、紛争には目もくれない。ウクライナ、ガザに匹敵する、いやそれ以上の状況なのに、ほとんど報道されないから、日本人はまったく知らない。コンゴ共和国(旧ザイール)がどこにあるかも知らない。
アジアにおいては、ミャンマーがいま内戦状態になっている。いくつかの少数民族の武装勢力と国軍の戦争は激化し、過去最大の死傷者が出ている。国連によると、これまで1万人ほどが殺され、200万人が家を追われたという。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。