ウクライナ、ガサだけではない戦争の惨禍
2024年、世界は「無法地帯」になるのか? (中)
(この記事の初出は2023年12月26日)
報道は恣意的、利害と関心度で行われる外交
アメリカ覇権の後退が鮮明になったのは、ウクライナ戦争もあるが、それ以前に、アフガニスタンからの撤退に追い込まれたことが大きいだろう。
こうなると、もう世界の強権国家、武装勢力は、アメリカを恐れることなく、なんでも好き勝手にやるようになる。
ただ、アフガンの場合、アメリカが去ってタリバンが政権を握っても、紛争はいまも続いている。アフガンはもはや暴力支配国家で、これまでタリバンとその他の武装勢力との間の戦闘で、少なくとも24万人の民間人が殺されている。
このほか、スーダン、ソマリア、アゼルバイジャン、クルドなど、くすぶっている火の粉は、世界にいくらでも散らばっている。もちろん、それらをすべて報道が同じようにカバーするのは無理がある。できるわけがない。
しかし、欧米も日本も、報道は恣意的で、関心があるなしで選択されていることを知ってほしい。
また、国際社会、世界は運命共同体と言っても、各国の思惑によって歪められている。各国の為政者は利害と、関心度によって外交を行い、コンゴのようなところは無視されている
アメリカならバイデン大統領、ロシアならプーチン大統領、中国なら習近平主席、EUなら盟主のドイツのショルツ首相などが関心を持たなければ、どんな紛争、戦争も放置される。
見放されたゼレンスキーのワシントン、EU訪問
いまや国際機関、とくに国連などは、まったく機能していない。安全保障はもちろん、人類最大の危機である温暖化による気候変動ですら進んで協力してやろうなどいう国は少ない。COPで化石燃料の「段階的廃止」(フェードアウト)を決められないのに、紛争、戦争を誰が止められるというのか?
結局のところ、利害関係と関心が薄れれば、すべては見放される。いま、ウクライナがそうなろうとしている。
ゼレンスキーは、ワシントンを訪問してバイデンをはじめ連邦議会の幹部と直談判し、支援継続を訴えた。しかし、バイデンの支援継続は“空手形”になる可能性が高い。
その後、ゼレンスキーはEUを訪問して同じように支援継続を訴えたが、ドイツは国内の予算調整が与野党でもめていて、追加支援は不可能と見られている。フランスも、最近は尻込みする姿勢を見せている。
判断の甘さと弱腰で「核の脅し」に負ける
ウクライナ支援が怪しくなったのは、イスラエルーハマス戦争が勃発したせいもあるが、なんと言っても戦争疲れによる「厭戦気分」が欧米に蔓延し始めたからだ。それを助長させたのが、ゼレンスキーと統合参謀本部議長との確執、権力争いが表沙汰になったこと。さらに、支援物資の横流し、横領などウクライナ内部の腐敗が明るみに出たことである。
もう一つは、アメリカとEUの判断の甘さと弱腰である。これまで与えた武器弾薬で、ウクライナは反転攻勢が可能と考えたのは、大きな間違いだった。ロシアは持ちこたえ、プーチンは「核の脅し」を持ち出してきた。
そのため、核戦争だけは絶対にできないアメリカとEUは、ゼレンスキーのロシア本土攻撃を思いとどまらせた。
イーロン・マスクは、スターリンクを全面開放してウクライナを支援したが、一部を提供停止にした。そうしないと、ウクライナがロシア本土攻撃をしかねないと判断したからだ。プーチンの核の脅しは効いたのである。
しかし、この状況でもし停戦となれば、プーチンの勝利となり、欧米の敗戦となる。アメリカ覇権はますます後退し、強権国家、独裁国家のやりたい放題となる。それは、この世界の秩序が失われ、「弱肉強食」(law of the jungle)の世界がくることを意味している。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。