ウクライナ、ガサだけではない戦争の惨禍 2024年、世界は「無法地帯」になるのか? (下)

ウクライナ、ガサだけではない戦争の惨禍
2024年、世界は「無法地帯」になるのか? (下)

(この記事の初出は2023年12月26日)

トランプ出馬の判断を見送った連邦最高裁

 2024年、世界は選挙の年である。
 1月には台湾総統選挙、2月にはロシアの大統領選挙、4~5月はインドの総選挙がある。もちろん、日本でもほぼ間違いなく総選挙がある(ただし現在の衆議院議員の任期は2025年10月まで)。しかしなんと言っても最大の注目は、11月のアメリカ大統領選挙である。
 このアメリカ大統領選挙は、今後の世界がどうなるかを決める決定的な意味合いを持つ。なぜなら、もしトランプ前大統領が復活となれば、世界はますます混迷し、ジャングルと化すからだ。
 連邦最高裁は、先日、2020年の大統領選の結果を覆そうとしたという容疑で起訴されたトランプに免責特権が適用されるかどうかについて、直ちに審理を始めるよう求めていたスミス特別検察官の要請を却下した。
これに先立って、西部コロラド州の最高裁がトランプの出馬は「違憲」とする判決を下していたので、最高裁の判断が注目されていた。もし、西部コロラド州と同じ判断を下せば、トランプは予備選に出られなくなる可能性があった。しかし、この事態は回避されてしまった。
 トランプは、大統領に返り咲く気満々である。しかも、世論調査ではバイデンより支持率が高い。先月、予備選が最初に行われるアイオワ州入りしたトランプは、こう言い放った。「ひねくれたジョー・バイデンはIQが低い。アメリカ史上最悪でもっとも無能でもっとも腐敗した大統領だ」「みんなの投票でアメリカを救おう。この国を地獄から取り戻そう」
 しかし、トランプ再選こそが地獄への道だ。

再選されればウクライナ支援は即刻打ち切り

 トランプはこれまで、「大統領選に勝てばウクライナ戦争を即刻終わらせ、ロシアとの対立に終止符を打つ」と繰り返し述べてきた。つまり、ウクライナ援助は即刻、打ち切られる。
 しかし、そんなことになったら世界はどうなるのか?
 NATO加盟国はトランプ再選に戦々恐々である。なぜなら、ウクライナ戦争終結とともに、加盟国に多額の軍事費の増強を強いてくるのは間違いないからだ。
 かつて大統領だったとき、トランプは当時のメルケル独首相を脅かし、「軍事費増強をしなければ、ドイツからアメリカ軍を引き上げる」とまで言ったことがあった。
 欧州ばかりではない。トランプは韓国に対しても在韓米軍を引き上げると言い、日本には「日米安保は不公平だ」と言って米軍駐留費の増額を迫った。
 なにしろトランプは、自分はアメリカを闇で支配する「ディープステート」と戦っていると公言している。国防省、国務省、CIAなどの情報機関は、そのディープステートの“本丸”で、彼らがウクライナ戦争などの戦争を起こし、世界を混乱させている。「それをやめさせる」と言っている。
 しかしそれは、単なる敗北であり、アメリカの覇権喪失である。そのことを、トランプは考えない。トランプは歴史を知らなければ、地政学も民主主義も理解していない。

(つづく)

 

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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

 

 

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