2024年、日本経済と円はさらに衰退
なぜもう2度と好景気と円高はありえないのか? (上)
(この記事の初出は2024年1月2日)
年頭にあたって、やはりいちばんの関心事は、今年、経済がどうなるかだろう。同じく、ドル円がどうなるかだろう。新聞各紙、ネットには、多くの評論家、アナリストが登場して、予測を述べているが、そのどれが当たるのか、また、その分析が正しいのかどうか、誰にもわからない。
中国経済は崩壊する、アメリカの景気は下降する、日本は景気が上向く、日米の金利差が縮まるので円高になるなど、みな勝手なことを言っているだけだ。とくに、専門家とされる人々の多くは、専門外の世界政治、国際関係、歴史、地政学などを基盤とした大局観がないので、その言説はあてにならない。
とはいえ、あらゆる情勢を考えていちばん確かなのは、日本経済と円はさらに衰退すること。もう2度と日本経済が好景気になり、円が高くなることはない。
専門家の見解と公表数値だけではわからない
経済学者、経済評論家、金融専門家などの予測は、当ったためしがない。もし、確実に当たるなら、彼らはみな大金持ちになっているはずである。よって、経済学者は経済の仕組みを過去の事象に基づいて理論付けるだけ、金融専門家は過去のデータを持って自説を述べるだけで、個人の金儲け、投資にはまったく役立たないと言っていい。
去年、日銀の総裁に経済学者として一流とされる植田和男氏が就任したからといって、日銀が景気や物価を正しくコントロールできるわけではない。AIが進化して、金融取引が自動化、HFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング)が主流になったからといって、ファンドが常にハイパフォーマンスを叩き出せるわけではない。
経済、金融メディアは、2つの要素で成り立っている。1つは、専門家の分析と予測、もう1つは、政府や公的機関、民間機関が公表する数値データである。これを組み合わせて記事ができるが、これだけではナマの経済は語れない。
レイ・ダリオの「ビッグサイクル」理論
最近、これはかなりいい線をいっている、経済の大局観を養えると思った本がある。それはレイ・ダリオの著書『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか(原題:Changing World Order)』(日経BP日本経済新聞出版、2023.9.23)だ。
500ページ以上ある本だが、なんと、解説のアニメーション動画(日本語バージョン)がYOUTUBEで公開されているので、これを見ることをおすすめする。
https://www.youtube.com/watch?v=y3oy8y0EljY
レイ・ダリオは、これまでに自身の経済観、世界観、歴史観を積極的に公開してきているが、この本では、16世紀以降の経済覇権の移り変わり(これをレイ・ダリオは「ビッグサイクル」と呼んでいる)を通して、次の経済覇権がどうなるかを展望している。
16世紀以降、世界の覇権国はスペイン、オランダ、イギリス、アメリカというように変遷し、いまアメリカの経済覇権はピーク後の衰退期に入っている。アメリカはこれ以上の衰退を先送りすることはできても、反転させることは難しいと言うのが、レイ・ダリオの見解だ。
アメリカの覇権がこのまま衰退していくかどうかには異論があるが、現在の国内の「分断状況」が続く限り衰退は避けられないと、私も思っている。ただし、アメリカに代わる覇権国はいまのところない。中国が次の候補であるが、習近平時代になってから経済は失速している。
では、日本はどうなるのか?
レイ・ダリオは、日本に関してはほとんど触れていない。すでに30年にわたって衰退を続けているので、ビッグサイクルから見れば、もはや蚊帳の外ということなのだろう。
(つづく)
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。