津山恵子のニューヨーク・リポートVol.26
大統領選、「死活問題として考える」
経済学者スティグリッツ氏
「大統領選挙のことは日夜、死活問題であるかのように考えているんです」 と、かつて世界金融危機を予言した老経済学者が、静かにこう語った。ショッキングな発言だ。
ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学教授のジョセフ・E・スティグリッツ氏が2月7日、230人を前に対談した。「2024年大統領選挙」は、世界が直面する最も大きなリスクのうちの一つだという。
同氏は、ジャパン・ソサエティー(JS)が開いた「グローバル・リスク・フォーラム:2024年世界情勢の展望」でステージ上に。メディアに登場することが極めて少ないスティグリッツ氏が45分も、目の前で世界のリスクについて語るのは圧巻だった。
「トランプ前大統領は、民主主義的なプロセスにコミットせず、私たちが知る法の支配を弱体化させることにコミットしている。これらの証拠は十分にある。私は経済学者だが、民主主義についてとても真剣に考え続けている」 と、アメリカの礎である民主主義について強調した。
さらに、トランプ氏が勝利した場合は、「一貫性がなく、民主主義に基づいた法治がない世界では、健全な経済を保てない」と指摘。会場から、拍手が起きた。
「もし、民主主義を守る合意、平和的な政権移行、真実を伝える機関がなければ、社会を支える機能の基礎がないことになる。これらは、私にとって最優先です」
スティグリッツ氏は、日本が抱える問題についてもふれた。 「私は成長が遅いことが悪いとは思っていない。根本的な問題として良くないのは、人口が増えないことだ」 として、日本の高齢化、人口減少について懸念を示した。
日本に必要なのは「構造的な変化」であり、財政赤字を補うために消費税を引き上げるのではなく、「炭素税を課すべきだ」と日本に主張してきたという。石油など化石燃料を使った際の炭素の含有量に課せられるのが「炭素税」。これがあればCO2排出を削減しようと人々が努力するようになり、そのための投資も活発になる。
「グリーンエコノミーは、歳入を増やし、民間の投資を呼び込むため、経済に刺激を与える」とスティグリッツ氏。
もう1人のゲストで米国中央情報局(CIA)元長官、デイビッド・ぺトレアスKKR グローバル・インスティチュート会長が、重大リスクに上げたのは、中東情勢と気候変動だった。大統領選の結果が日本に及ぼす影響については、「トランプが前回当選した際、安倍晋三元首相は、トランプタワーに即座に訪れるという思慮深い行動を取った。ゴルフにも連れていった。トランプが今回勝利したとしても、日本は適切なポジショニングを取るだろう」と興味深い予想だった。
津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。